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059 悪鬼羅刹というスキル3

 俺は一冊の本――装丁もなにもないコピー用紙を麻紐でまとめただけのものだが――を3人に見せる。


「これって旅の途中で見せてもらった本ですか?」

「一般魔術基礎・概論。よね」


 ノエルは初めて見るだろうが三嶋と矢早銀は覚えていたようだ。

 表題には()()と書かれてはあるが、スキルと魔術は根本的には同じものだ。なのでこの本にはスキルについても言及されている。


「さてと、人の身体の中にある魔力経路は二種類に分けられるんだが、分かるか?」

「はい。なんとなく聞いたことがある気がします」

「身体に魔力を巡らせるための魔力の通り道と『スキル』を発動するための魔力の通り道ね」

「そうなのか? あまり意識したことが無いな」

 

 返事だけは良い三嶋と優等生ぶりを発揮する矢早銀。対してノエルはピンと来ていない様子だ。

 この一般魔術基礎・概論のシリーズはこの世界で一般的に広まっている常識とは異なるアプローチで書かれている。

 そのため異世界からきた俺たちにはなんとなく理屈が適っているようで飲み込みやすい内容でも、この世界で生まれ住んでいる者にとっては馴染みのない解釈が多いらしい。

 ちなみに体中に魔力を循環させるだけの魔力経路は()()()()、スキルの術式を構成している魔力経路は()()()()と呼ばれている。


「スキルを発動させるときは当然固有回路に魔力を循環させるんだが、実際意識してそれを振り分けているやつは少ないんだ。ノエルが意識したことが無いというのもそれを無意識に行っているからで、大抵の人がスキルを発動するという感覚だけでやっている。それで出来ているんだからおおよその人にとってはそんなこと知っていようがいまいが関係ないんだがな」

「わざわざその話をするってことは、ノエルさんには重要ということね」


 多くの人にとっては「スキルを発動する」「スキルを解除する」「能力向上を行う」なんていう感覚で体内の魔力を操作している。

 しかしながら、それがまかり通るのは感覚と目的が合致している場合だけだ。

 

「ノエルがスキルを発動するときはもちろん『スキルを発動する』という感覚で魔力を循環させて、その後は『魔力暴走を抑え込もう』としているだろ」

「ああ、その通りだ。だがスキルを抑え込むことは自分ではできなかった」

「まあその結果は仕方がない。さっきノエルの魔力の流れを確認していた限り魔力の暴走は固有回路ではなく通常回路の方で起こっていたからな。『魔力暴走を抑え込もう』という感覚なら自然と通常回路に作用したんだろう。だからいくら魔力暴走を抑え込もうとしたところでスキル自体が解除されることはなかったわけだ」


 俺がノエルのスキルを強制的に解除するときは、固有回路の魔力をかき乱すことでスキルを止めた。

 しかしノエルがスキルを止めようとするときは『魔力暴走を抑え込みたい』という感覚で行うため、固有回路には影響せずにスキルは発動し続ける。


「あれ? でも先生、それって魔力暴走が通常回路で起きていて、それを抑え込もうとして通常回路の魔力を制御しようとしていたってことですよね。それならスキルは止められなかったにしても魔力暴走自体は抑え込めてないとおかしくないですか?」

「確かにそうよね。工平のくせに良い質問よ」

「あれ、何で今ディスられたの?」

「ふむ、しかし魔力暴走は抑え込めなかったぞ」


 三嶋が言った通り、さっきの説明までならノエルはスキルを止められないまでも魔力暴走の方はどうにかできたはずだ。

 しかしそれは叶わなかった。そこに『悪鬼羅刹』というスキルの秘密がある。


「おそらくだが『悪鬼羅刹』は通常回路の魔力を加速するスキルなんじゃないだろうか」

「通常回路の魔力を加速?」


 ノエルの魔力の流れを見ていて気になったのは魔力暴走が通常回路で起こっていたことだけではない。

 通常回路を魔力が激しく循環していたわけだが、その流れが一定ではなかった。ところどころで加速していて、その影響で全体的に流れが激しくなっていたようだった。

 その状況から考えるに、『悪鬼羅刹』とは通常回路における加速器のようなスキルなのだろう。


「だから正確には魔力暴走を抑え込めなかったのではなく、いくら魔力暴走を抑え込んでもスキルの効果でさらに魔力を暴走させられていたんだろう」


 アクセル全開のままブレーキを目いっぱい踏んだところで素直には止められないだろう。まあ機械なら安全構造上ブレーキが優先されるかもしれないが、そんな無茶な使い方をすればぶっ壊れても文句はいえない。そしてそれは人の身体も同じだ。


「そうだったのか。だが、そうだとしたら止めようがないじゃないか」

「そうね。魔力の流れを抑え込もうとしても、さらに魔力を加速させているなら……」

「だからこそ最初に魔力経路の話をしたんだよ。二つの魔力経路を意識できるようにな」


 ここで最初に説明した内容に返って来る。

 これまでは『悪鬼羅刹』を止めるために魔力暴走を抑え込もうとしていた。反射的な行動だろうが、スキルの効果を誤認していた場合のそれは悪手だ。

 スキルの発動とスキルの効果が別々の魔力経路で行われるなら、どちらの魔力経路の魔力を制御すべきかを意識的に見極めなくてはならない。

 

「ということで今後意識して練習することは二つ。『悪鬼羅刹』を()()()()()に固有回路の魔力を抑え込むこと。そして『悪鬼羅刹』を使()()()()()()()に通常回路の加速した魔力を抑え込むのではなく制御することだ」


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