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052 冒険者生活

 鬼人たちと赤紙依頼の一件から一週間ほどが経っていた。

 ノエルたちは母国への帰還は一旦取り止め、サウールの街に逗留することにしたようだ。

 先の騒動が彼女たちの母国の派閥争いが原因だそうで、国内の状況がはっきりするまでは慎重に動かざる負えないのだろう。

 今は伝手を使って情報を集めながらこの街での生活基盤を整えているそうだ。


 俺たちも生徒の捜索は続けるにしても、先立つものがなければ生きてはいけない。

 そのためには適度に冒険者の依頼も受けなければならない。


 昼前の冒険者組合には冒険者はまばらだ。職員も今はひと段落ついたのかどこか気が抜けた様子で雑談を交えながら事務処理を行っている。

 依頼が張り出せれている壁に向かう。朝一なら依頼の紙が所狭しと貼り付けらているが、混雑を嫌って冒険者が減った頃合いにもなると余白が目立つ。


 依頼の受領は早い者勝ちだ。割の良い依頼はすでに一枚も残っていないが、割が良いということはそれだけリスクもあるということだ。生徒を連れている以上はできるだけリスクは避けたい。

 それに俺たちは一攫千金を狙っているわけでも活躍して栄光を求めているわけでもない。生徒捜索の間、生活するだけの資金が稼げればよい。なので常設されている採集依頼や調査依頼なんかのローリスク・ローリターンの依頼で十分だ。

 ともあれ――、


「さて、どんな依頼にするか……」

「危険は少ない方がいいとはいっても、採集依頼は正直飽きましたよね」


 三嶋がうんざりした風に漏らす。

 その気持ちもわからなくはない。採集依頼は木の実や薬草などを集めるものだが、目当てのものを探して十分な量を集めるというのは地味な上に疲れるものだ。

 仕事というのは得てして面倒な繰り返しもあるものだが、社会に出ていない生徒にとっては地味と退屈は毒にもなる。

 とはいえ、保護者としては危険度を上げすぎるわけにはいかないし、良い依頼はないものか。


「家具や建物の修理とかがいいわよね」

「矢早銀さん。それって僕に全部押し付けるつもりだよね、僕だけが大変なやつだよね」

「人の役に立つようにと、あなたは工平と名付けられたはずだけれど」

「いや知らないよね。僕の名前の由来なんて知るわけないよね。だいたい僕の名前の由来はおじいちゃんが大工だったからだからね」


 矢早銀と三嶋がじゃれている。

 三嶋の『生産者』は材料さえあれば大抵のものが作り出せるし修理も可能なのだそうだ。そのためには作るものの構造を理解していなければならないが、通常の製造工程を無視できるのは有用すぎる。

 

「しかし、そういうのは鍛冶職人とかそれこそ大工の仕事だろう」

「それもそうね。ふん、まったく役立たずね」

「先生!! 矢早銀さんが僕に悪口を言います」

「うん? そうか」

「そうかって先生……。そういう態度がいじめを助長してですね――」


 矢早銀と三嶋のやりとはいつものことなので放っておいて依頼を選別していく。

 青紙に書かれた内容を見ていくが内容はわかってもどれくらいの難易度かはよくわからない。採集にしても集めるものの名前だけではわからないし、討伐にしても魔獣の知識はほとんどないからな。

 いつも同じような依頼ばかり選んでいたのもその辺が理由でもある。


「ということで、俺たちにちょうど良いくらいの依頼はどれかな? あと依頼の詳細も教えてほしいんだけど」

「何が()()()()()()、なのか分かりませんし。毎度私のところに手続きに来ないでください。私そんなに働きたくないんですよね。今は他の窓口も開いているので他所に行ってもらえませんか。あとこの間の焼き菓子はおいしかったです」


 受付のお姉さんがいつもの気だるげな口調ながらも早口で連ねる。

 まあそんな愚痴を漏らしつつもきちんと仕事をこなしてくれるのがお姉さんでもある。


「ナナエさん達にちょうど良い依頼って言いますけど。そもそもどうして魔獣素材の収集とか討伐依頼は受けてないんですか?」

「そりゃあ、危ないからだろ」

「危ないって。ナナエさん達はクレイジーモンキーに襲われた上にエビルエイプとも戦ったんですよね?」


 鬼人達との森での出来事のあらましを知っているお姉さんが怪訝に返す。

 魔獣が襲ってきたことやそれを撃退したことは冒険者組合にも報告してある。ただ、下手に罪に問われるのも困るので、森の一帯が吹っ飛んだ件については通りすがりの魔術師がやらかしたということで口裏を合わせている。

 組合がそれを鵜呑みにしているかは怪しいが、今のところ森の件でそれ以上追及されてはいない。


「エビルエイプを無傷で倒せるなら、大概の魔獣相手でも危険は少ないと思いますけど」


 エビルエイプというのは森の中で襲ってきた人間サイズの猿のことだ。

 確かにあの程度の魔獣なら問題ないが、他の魔獣ってあれよりも弱いのか?


「ということであれば、ちょうど厄――、ちょうど良い案件がありますので、そちらを受けてもらえますか?」


 少しばかり引っかかるが、まあお姉さんの選定なら大丈夫だろう。

 俺たちは紹介された魔獣退治の依頼を受けることにした。

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