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幕間016 3-D 縫条正義

 ――縫条正義は、凡庸であり異質である。


 トルメスト王国の王都。中世ヨーロッパを思わせる石造りの建物が並ぶ大通りは朝も早くから多くの人々が行き交う。

 多種多様な鎧や武器に身を包む者たちは冒険者、たまに通る馬車は商人たちのものだ。

 大国の都ということもあって様々な人も物も集まってくる。人種も多様であり、犬っぽい耳をつけた者、身体の各所に鱗を覗かせる者、膝丈くらいの背で直立して歩く猫のような者。王都には様々な人種が様々な目的で訪れる。

 その中でもとりわけ異質な人物がいた。


「何たることだ……」


 人の行きかう大通りで、人目も憚らずに膝をついて地面を叩きつける。

 その肩は震えている。その理由は恐怖でも悲哀でも憤怒でもない。それは歓喜であった。

 境天寺学園から抜け出し王都へと訪れた縫条正義は、異世界の街を行きかう人々、その姿を目の当たりにして信じられない思いだった。


 たぐいまれな才能を発揮する縫条一族の一人でもある正義。彼のそれは他人の開花した才能を見極めることができる、というものだった。

 例えば100mを9秒台で走れる人間が目の前に立っていたとして、正義はその事実を知らなくても目の前の人物に何ができるかを言い当てることができる。


 それこそ超能力とでもいえる能力だ。

 ただし見極められるのは開花した才能だけだ。将来世界記録を打ち立てられるような人物だったとしても、現時点でそれだけの能力に至ってなければ正義には見定めることができない。

 皮肉なことに世界記録を打ち出せるだけの才能を開花しているということは、同時にその記録は公に周知されているだろう。

 すでに発覚している事実を言い当てられたところで、そんな能力に使いどころはない。だからこそ、それ以外に突出したものがない正義は凡庸と評される。


 人の才能を見極められる。人を才能で見極められる。

 人の外見でも中身でもなく、純然たる結果で人を判断できる正義はしだいに人を見分けることができなくなった。人を個人を区別できない。

 正義にとって多くの人間は、才能を開花していないという大きな括りで区別される。

 有名無名は関係ない。

 正義は結果を見極める。


 ただ有数の、歴史に名を遺すほどの指導者、理を解き明かした学者、既存ルールさえ改変させたスポーツ選手、感動という奇跡を起こす芸術家たち。正義が顔を名をヒトを認知できるのはそれだけの才能を持った人間だけだ。

 それ以外は区別がつかない。有象無象。ただの無彩色のヒト型の生き物としてしか正義の目には映らない。

 縫条正義は縫条という一族のなかでも、人間という枠の中でも、異質であった。

 

「何たることだ……?!」


 正義は歓喜する。

 元の世界ではほとんど意味のなかった自分の能力。

 多くの人間が無彩色のヒト型にしか見えなかった正義の目は、この世界では色とりどりに彩られている。


 この世界では誰しもが生まれながらにスキルを有している。

 無論それを発現できずに一生を終える者も少なくはない。しかしそれでも、確実に、明確にスキルの術式は身体に刻まれている。

 どんなスキルを持って産まれ、何ができるはずなのか。そんな優劣が残酷なまでに確定している。

 魔力というものがあるからこそ、スキルというものがあるからこそ。生まれながらにして明確なその結果を正義はその目で見極めることができた。


 学園長である法子のスキルがその人物の魔力の流れや質を見極めるのとも違う。正義にはその人物がどんなスキルを使えるかまではっきりと見極められる。

 そして、どんなスキルだろうとその多くは元の世界で言えば超常的なもの。言ってしまえば正義のお眼鏡に叶うような才能だ。

 目の前には色とりどりの才能が行きかう。そしてその姿は――。


「あれは……、動物の耳か? ……それに鱗、尻尾? なんだ、それは。……そんなもの。可愛すぎるではないかぁぁああああ!!?」

 

 ――縫条正義は、凡庸であり異質である。

 おそらくは今のところ、おおよそ一般的な趣味趣向と比較する限りは。

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