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051 顛末

 魔獣を倒してからしばらくして、目を覚ましたヴォルフガングたち鬼人の3人と一緒に、俺達はサウールの街へと戻ることにした。

 赤紙依頼の状況はまだわからなかったが、森の騒動はだいぶ大事になってしまったし安全面を考えるなら森に潜んでいるよりは良いだろうとなったのだ。

 森にはまだ他の魔獣がいるかもしれないし、最悪他の冒険者と出くわしても俺たちが間に入って仲裁する方が平和的に終わるだろう。


 サウールの街に戻る道中。この状況をどう説明したものか悩んでいたのだが、結果的には肩透かしをくらうことになった。

 懸念していた冒険者組合の動向だが、俺たちが街に戻った頃には既に(くだん)の赤紙依頼の調査が始まっていた。おおよその冒険者にも通達されていたらしく、そのおかげで街に戻るまでに他の冒険者に襲われることもなかったのだろう。


 不正な赤紙依頼を掲示した犯人――冒険者組合の組合員が買収されていたらしい――は、すぐに拘束されて情報を吐かされたらしい。

 得られた情報から判明した犯人は二人。一人は冒険者で、実際に鬼人たちの暗殺を請け負っていた冒険者だ。

 あの赤紙依頼はその冒険者の手助けするために、その冒険者の依頼人――、つまりはこの事件の首謀者が手配したのではと見られている。

 まったく、うちの生徒まで巻き込んで迷惑なことこの上ない。


 そしてもう一人。その首謀者がかなり厄介な人物だった。

 首謀者の目星は思いの外簡単についたらしい。ノエルたちと同じ鬼人族、鬼人の国の重鎮だということが分かった。

 簡単に首謀者が発覚したのも、それが冒険者組合に発覚したところで問題がないためだろう。

 鬼人の国には冒険者組合の支部も無ければ出資もしていない。

 そのため、冒険者組合というシステム内での制裁は出来ないし、傭兵国家という武力集団を相手に表立って事を荒立てるのは組合にっとてもデメリットが大きすぎる。


 冒険者組合の鬼人の国に対する対応は、形だけの抗議文が送られる程度になった。表向きは鬼人族の内での派閥争いを外に持ち出すなと牽制するような内容だ。

 まあそれは言った通り表向きの話だ。裏でどういったやりとりがあるのかは俺たちには知る由もない。


 そんな冒険者組合と鬼人の国、そしてここトルメスト王国もか。それぞれが牽制と様子見でごたつきを見せたために、ノエルたち鬼人の3人はしばらくサウールの街に留まることになった。

 お国も荒れてそうだし、命を狙った首謀者のいるところにノコノコ戻るわけにもいかないだろう。

 一応伝手を使って鬼人の国の情報を集めたり、国内の味方と連絡が取れるようには動いているらしい。

 

 ノエルについては森での約束もあるので、彼女のスキルを使いこなすための練習に協力することになっている。

 これからはこの街で鬼人たちとも付き合っていくことになる。

 この世界の知り合いが増えることは悪くないだろう。生徒探しも手伝ってくれるというしな。


 轟と保倉についてもしばらくはこの街で暮らしてもらう。いちいち学園まで送り届けていたんじゃ生徒探しの時間が削られるし、2人だけで帰すのも心配だからな。

 俺たちと会うまで数日ではあるが、なんだかんだ冒険者としてやってきたみたいだし、街で暮らす分には大丈夫だろう。

 一応危険なことはするなとは念を押して言ってある。まあ前科のある二人だが、矢早銀があの木製バットを片手にひとつ打ち鳴らすととても良い返事が返ってきたので大丈夫だろう。


「……。それで、なんでそんな話をここでしているんですか?」


 冒険者組合の受付の気だるげなお姉さんが怪訝に問う。

 先日会ったときもやる気の無さはあったが、今日はさらに輪をかけて疲れているようだ。心なしか目の下に隈もできているようだし、目つきも朧げだ。


「いやまあ、赤紙依頼の件では世話になったようだしな。経過報告も兼てなにか御礼でも返せればとおもってな」


 赤紙依頼の件については、お姉さんがいち早く調査に動いてくれていたらしい。

 いくら不正だったとはいえ、一度貼りだして多くの冒険者が受けてしまった依頼を覆すようなものだ。冒険者組合にとっての沽券にもかかわるので簡単には認められないだろう。

 それでもあれほど迅速に解決したのはお姉さんの働きがあってのことだろう。


「だって最後に話した人が物理的にバラバラになって帰ってきたら目覚めがわるいじゃないですか。仕事場も気まずくなりますし」

「そこは普通に悲しんでくれよ。あとひとをそんな猟奇的に殺さないでくれ」

「それにあの赤紙依頼のことは気にはなってましたし。まあちょっと遅かったみたいですけど」

「そんなことはないだろ。帰ってきたら面倒ごとが片付いていたんだからな」


 余計ないざこざが起きずに済んだのはお姉さんが迅速に対応してくれたおかげだろう。

 謙遜するお姉さんをねぎらうつもりだったが、返ってきたのは疲れたようにため息だ。


「私たちの仕事はそもそも、冒険者のみなさんの安全をサポートすることなんですよ。どんな依頼でもその難易度や危険性を可能な限り明確にして、身にあった依頼を受けてもらう。そうすることで、可能な限りの安全を確保しているんですよ。あんな事態は本来あってはならないですし、それを解決しようとするのは当たり前ですよ」


 いつもの言動からはやる気なさげな印象ばかりが目立つが、その実はすごく真摯に取り組んでいるようだ。

 そういえば面倒くさそうにはしていても、書類の説明や手続きはしっかりしていたし手際も良かったな。 


「だから別に御礼なんて不要ですよ。それが私の仕事ですし。――まあそれはともかく、西区の大通に最近新しく焼き菓子のお店ができたとか」


 世間話のように最後にそう付け足すお姉さん。

 しっかりリクエストされたので今度買ってくるとしよう。


 それにしても街について早々、大変な騒動に巻き込まれたものだ。

 そんな中で無事に二人の生徒を見つけられたのは幸先が良いのか悪いのか。

 学園から失踪した生徒はまだまだ残っている。生徒たちが無事であるように心のなかで祈るばかり。


 この街での生徒捜索は始まったばかりだ。

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