004 境天寺学園の理事長
境天寺学園の理事長――縫条法子はいついかなる時も冷静沈着であり、どんな問題が起こっても迅速かつ合理的に対応する。
それは学園内に不審者が入り込んだ時も、生徒間で暴力事件が起きた時も、理解力の乏しい保護者が喚き散らかす時も、変わらず慌てることなく的確な判断力と実行力をして見せる。
――そしてそれは、やたらと長く続く地震が起こった時も、学園の外が見知らぬ世界へと様変わりしたときも同様であった。
無論、法子にも何が起こったのかはわからない。
だが何をすべきかは、長年の経験と非常時に対する心構えからおのずと脳内に構築される。あとは類稀な決断力と実行に移すための覚悟だけだ。
――地震が始まって間もなく。
理事長室にいた法子は、すぐに隣にある職員室へと向かった。
一般的な震災時のマニュアルでは揺れが収まるまでは机の下などに隠れているべきだろう。それでも法子はすぐさま指示の出せるように行動することを優先した。
職員室では数人の教師が机の下に隠れるでもなく戸惑うように、互いの様子を伺いあっている。
法子は嘆息しそうになるのをぐっとこらえて、こちらに気づいた教師に放送の準備を行うように指示を出す。法子自身も正確な状況を確認すべくスマホを取り出した。
――そして地震が収まる頃。
スマホ画面に表示されるネットワークエラーを怪訝に思う間もなく、窓の外の異変に誰ともなく戸惑いの声があがり始める。
同じく窓の外を確認した法子は、動力を失った蛍光灯や近くのデスクトップパソコンに目を向ける。
「放送は?」
「……えっ。あ、はい。非常電源が生きているようなので、だ、大丈夫だと思います」
法子の短い質問に、放送の準備をしていた教師が戸惑いつつも答える。
法子とて今の状況は理解も把握もできてはいなかったが、その最低限の確認だけを終えて校内放送のスイッチを押すのだった。
――地震が収まってから30秒。
法子は一度だけ深呼吸をはさみ、動揺を欠片も見せない声色で放送を開始した。
放送内容は極めてシンプルだ。生徒ならびに担任教師への教室での待機指示と、その他の関係者の召集だ。
今の状況に関する説明もなにもない。そもそもこの状況を理解できている者などいないのだ。
だが、ただこの異常事態で皆が混乱の最中に陥ろうとするなかで、唯一自分たちがすべきことを示してくれるその指示のおかげで、集団パニックという最悪の状況にはならなかった。
――校内放送から5分。
法子の迅速かつ明確な指示により、生徒と担任教師はそれぞれのクラスに待機、その他の関係者は職員室に集合していた。
職員室に集まったのはクラス担任を持たない教師や事務員たちだ。彼らは集合するやいなや法子からの新たな指示により3人一組になって学園内の見回りを始めた。
学園の外は見知らぬ土地で大きな城まで存在する。速やかに学園内の統率と周囲への警戒態勢が整ったことは、彼ら自身の不安を多少なりとも和らげることにもなっていた。
――さらにその5分後。
境天寺学園の理事長室に数人の教師が集まり、今状況への対策会議が開かれていた。