034 遭遇
「まさかこんなところでハルさ――、矢早銀さんたちと出会うなんて」
「はあ、私は先生たちと勝手に学園からいなくなったあなた達を探してたのよ」
殴られたお腹をさすりながらつぶやく少女に、矢早銀があきれて返す。
三嶋と矢早銀の反応を見るに、ばったり出会った少年少女は学園の生徒なのだろう。正直顔も名前も覚えてないのだが、教師がそれを言うのもあれなので訳知り顔でいよう。
「ええっと。先生?」
出会い頭に何か触れてはいけないことを口走って矢早銀に殴られていた少女が、俺の方を見て疑問符をつける。
三嶋が教えてくれた話によると2Bの生徒で保倉ねねというらしい。薄桃色の長い髪に少し大人びたすっきりとした顔立ち。すらっとした指先は髪と同じ薄桃色できれいに手入れされている。この異世界でもおしゃれに気を遣うところはやはり女性といったとこか。
「パソコンの先生よ」
「パソコン? ああ、そうだそうだ。髪型変わってたからちょっとわかんなかった。確かにパソコンの先生だ。見たことあるある」
「へえ、そうなんだ。俺情報取ってないから知らねえや」
二人とも俺の授業は受けてなかったはずだが、保倉は俺のことを知ってはいたらしい。
対して興味無さ気に言い捨てるのは轟雷太だ。金色の短髪に袖をまくり上げている腕は運動部らしく鍛えられたものだ。
「それで、探してたって俺たちに何か用ですか?」
「何か用かって、お前なあ。学園には生徒を保護する責任があるんだから、勝手にいなくなったら探すにきまってるだろ。それ以前にこんな異世界でどこかに消えたら心配するに決まってるだろ」
「はあ……」
どうも轟はそのあたりの道理を理解できていないらしい。反省の色もなくポリポリと頬を掻く。
保倉の方は少し申し訳なさそうにしている。
「まあ、二人とも無事そうで良かったよ」
「そういえば先生。いなくなった子を見つけたらどうするの?」
「うん? そうだな、とりあえず学園に連れ帰ることになるんだが、この街にほかの生徒もいるかもしれないしな」
誰かを見つけるたびに学園とこの街を往復するのも大変だろう。往復8日くらいか、その間に生徒が危険にあるかもしれない。
しばらくは俺たちも、見つけた生徒たちも、この街に滞在してもらわないといけないだろう。少なくとも轟と保倉はこの街で冒険者として仕事もしていたみたいだし、危険なことさえしなければもうしばらく今まで通り生活してもらうか。
「ところでお前たち冒険者になってるみたいだが、組合員には所属してないよな?」
「ああそれね。俺は組合に入った方がメリットあるって言ったんすけど、ねねのやつが止めとけってうるさくて」
「当たり前じゃん。こんなわけわかんない世界で知らない組織に所属してどうすんのよ」
轟はあまり物事を考えていない印象だが、保倉がちゃんと考えて手綱を持ってくれてるようだ。そういえば俺たちに気づくまえも、無茶しようとしてる轟を保倉が諫めていたっけな。
組合員のことについてざっくりと伝えておく。轟と保倉たち自身もそうだが、二人がほかの生徒に出会ったときはそのあたりの事情も伝えてもらいたい。
「しばらくは俺たちもこの街で生徒を探すことになるから、お前たちも危険なことはしないでくれよ」
「わかったよ先生」
「まあ面白そうな依頼があったらわからないけd――ごめんごめんおとなしくしてるって」
また軽口を言おうとした轟が矢早銀の無言の視線で押し黙る。
数日とはいえ二人だけでこの街で生活してきたのだ。二人にもほかの生徒の捜索を手伝ってもらおう。俺たちと手分けができれば、単純計算で効率は二倍だ。
何はともかく、しばらくはこの街を拠点に生徒探しだ。
ああ、そうそう。最後まで二人に気づいてもらえていなかった三嶋はなんだか寂しそうだった。