033 遭遇
冒険者組合で必要だった手続きも、冒険者に関する情報収集も終わったしそろそろ宿を探そう。
お姉さんにお礼を言って移動しようとしたところで、掲示板の方で騒ぎが起きた。
「おいおい緊急依頼だってよ」「うひゃひゃひゃ、久々の赤紙依頼じゃねえか」「こりゃ腕がなるってもんだぜ」「武器は足りてるか? 少々費用が嵩んででもしっかりそろえろよ」「早く面子を集めろ。ほかのやつらに先を越されるぞ」
血気盛んな冒険者たちが何やら騒いでいる。
赤紙とかなんとか言っているようだが、お姉さんの話ではやばい依頼だったか。
「……赤紙って。私聞いてないんだけど」
お姉さんが首をかしげている。ほかの受付の人も戸惑っているようだし、報連相が行き届いてなかったのだろうか。
受付の人が落ち着くように言っても、興奮した冒険者たちがおさまる様子はない。
「赤紙ってそんなにうれしいのかな」
「難易度が高いんじゃないの? あの人たちが全員凄腕には見えないんけど」
「うーん。確かに色によって難易度も上がるんですけど。赤紙は少し違って緊急度や重要度が高い場合もあるんですよ。犯罪者の捕縛とか、危険人物の討伐とかですね」
あれほど冒険者が盛り上がっていて、受付の人への連絡もできてなかった状況を見るに、難易度よりも緊急度が高いってことだろうか。どんなに急ぎだったとしても受付をすっ飛ばすのもどうかと思うが。
ちなみに、依頼の種類にかかわらず赤紙は総じて報酬が高いらしい。それであれだけの盛り上がりを見せているのだろう。
情報が届いたのか、徐々に受付の方も慌ただしくなってきた。相も変わらずお姉さんのところには冒険者たちは来ないが。
どうも依頼内容は悪人の捕縛だったらしい。あちこちから相談する声が聞こえてくる。
「おいお前も依頼聞いたか? 標的は鬼人族だってよ」「なんでも祖国からも追われている極悪人らしい。生死問わずって何やらかしたんだ?」「まあそれだけ報酬も跳ね上がるってもんだぜ。しかし鬼人族ってことは手ごわいんじゃねえか」「相手は3人らしいし人数集めて囲めばいくら鬼人族でも余裕だぜ」「おいおいサウール周辺ってだけで細かい位置は書いてねえじゃねえか。こりゃどこを探すかもよく考えねえとな」
鬼人族ってことはさっき会った3人組のことだろうか。あまり悪人には見えなかったが、人は――いや鬼も見かけによらないな。
しばらくして受付や相談が終わったのか、騒いでいた冒険者たちがぞろぞろと移動し始めた。
「んじゃ。俺たちも宿探しに行くか。お姉さんありがとね」
「こちらこそどうも。今後はあちらの受付でよろしくお願いしますね」
最後までやる気のないお姉さんだった。
冒険者組合を後にした俺たちは今日の宿を探して街を歩く。しばらくはこの街で滞在して生徒を捜索する必要があるだろうから、できるだけ安くてまとまった期間泊まれるところが良いだろう。
冒険者組合のお姉さんにいくつか候補は聞いているので、まずはそこから当たってみるか。
街道にはちらほら慌てて移動しているグループが見て取れる。さっきまで冒険者組合で騒いでいた冒険者たちのようだ。武器やら防具やらをガシャガシャ言わせて、興奮した様子で走っていく。
前からも冒険者っぽい二人組が歩いてくるが、こちらは依頼からの帰りなのか砕けた話し声が聞こえてくる。
「なあなあ、次はもうちょっと実入りの良いクエストにしようぜ」
「何言ってんのよ。ようやくスキルを使いこなせてきたんじゃない」
「だからだよ。俺らのスキルならもっと難しい依頼もイケるって」
「私達のスキルじゃ決定打には欠けるんだし、少なくても武器か魔術で高威力出せる人がいないと。高難易度の依頼は危険な魔獣だって――、あっ」
それまでにぎやかに話し合っていた少年少女だったが、俺たちを見るや目を丸くし、少し気まずそうな表情を見せる。
いや正確には少年少女の視線は俺の隣にいる矢早銀に向かっているようだ。
「……ハル様?」
――様?
少女が思わず漏らした言葉の意味を確認する間もなく、矢早銀の行動は早かった。相手が行動する猶予を与えずに接近し、無防備なボディに一発。殴られた少女が苦しげな表情を浮かべて崩れ落ちた。
残された少年がただただ青ざめた顔で、こちらに助けを求めてくるが状況がよくわからないので、果たしてどうしたものか。
「先生、あれが口は災いの元というやつです」
「ああ、お前も気をつけろよ」
他人事のようにつぶやく三嶋には日ごろの言動を鑑みてほしい。そんなことを考えつつ、少年少女が矢早銀に絞められているのを遠巻きに見ていることしかできなかった。