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030 サウールの街

 学園を旅出てから4日、俺たちはようやく街に到着した。

 トルメスト王国の西部に位置するサウールというこの街は、王国内でも有数の大きな街なのだそうだ。

 街の北側には森林区、西には鉱山、南側には巨大な湖があり食材や素材に豊かであるため、それらの流通から生産といったものまで多岐にわたる産業が盛んな街だと、事前資料に書かれていた。

 ちなみにこの事前資料は、学園のとある職員が王都の酒場を渡り歩いて集めた情報資料らしい。


「すごい。まるでファンタジー世界に入り込んだみたいだ」

「そもそも私たちはまごうことなき異世界にいるのよ。まあ、この風景はすごいけど」


 三嶋と矢早銀が異世界の街並みに感嘆の声を漏らす。

 俺も学園から王都を眺めていたくらいで、実際に異世界の街を訪れるのは初めてだ。

 ここまでの旅ではおおよそが森、平原、川、の景色だった。まあそれも大自然という凄まじい景色だったが、俺たちの知らない世界の人がいて生活がある風景というのはまた一味違う感動を与えてくれる。


 街並みは木組みのレンガ造りの建物が並び、道路もレンガで整備されている。街灯らしきものも等間隔に設置されているが、元の世界の電力を使ったものではなく魔力で火を灯す魔道具とのことだ。

 街の中央通りには何台もの荷馬車が行き来し、ガラガラとにぎやかな音を立てている。それに負けじと人々のにぎやかなやり取りも飛び交っている。


 行き交う人々の中には動物の耳や尻尾をはやした者も少なくない。ここに来る前に出会った鬼人族のような人族以外の種族も多くいるようだ。

 また何人かは剣やら鎧やら、それこそファンタジーもので表現されるような武具を身にまとっている。あれが冒険者という人たちなのだろう。


 この街で失踪した生徒たちがいないかどうか探さないといけないのか。せめて冒険者なんて危険な行動はとっていてほしくないのだが……。


「そういえば先生、いなくなった生徒って誰なんですか?」

「ウチのクラスの馬鹿たちはわかるけど、他のクラスのことは知らないのよね」


 そういえば失踪者のことを二人に説明していなかった。俺はいなくなった生徒とはほとんど面識がないので捜索は二人がメインになるだろう。俺もさすがに生徒たちの特長くらいは聞いておきたい。


「そうだった、確か学園からリストをもらっていたんだが」


 いそいそとバッグから二枚のコピー用紙を取り出す。書かれているのは失踪者の名簿だ。一枚には2-Dの生徒たちの名が、もう一枚にはそれ以外の生徒たちの名が並んでいる。

 リストを受けっとって名前を確認する二人。三嶋は少し引きつったように、矢早銀も軽く頭痛でも起こしたかのようにため息を吐いた。


「うへぇ」

「これはまあ、厄介そうなのがちらほらと……」


 2-D以外のクラスの生徒に関しては、個人で失踪したのもあって一癖はあるだろうと思っていたが。二人の反応からその予想は間違っていないようだ。


「でもまあ納得といえば納得というか」

「全員は知らないけれど。知ってる子について言えば異世界でも上手く立ち振る舞えそうな感じね」

「そうなのか。それならまあ、そこだけは少し安心か」


 まあ悪い状況についてはできるだけ考えたくはないが。ただこの子たちを連れている以上はその最悪の状況でどう振舞うべきかは決めておかないといけないだろう。

 ほんと俺の職務内容にはないことばかりだ。


「みんなの無事もそうですけど。見つけたとして説得をちゃんと聞いてくれるかも僕は心配ですが」

「確かに異世界で学園の保護下から飛び出すようなアグレッシブな生徒たちだからな」

「まあ女子に関してはだいたい矢早銀さんが言えば従うでしょうが」

「なあ、気にしないようにしてたけど時々話に出るその矢早銀に対する評価はなんなの?」

「それは矢早銀さんが中学じ――っぐぉ」

「工平。それ以上無駄口叩いたらしばらく流動食しか食べられないようにするから」

「矢早銀さん忠告が怖いです。あと殴る前にも忠告が欲しいです」

「よし、それじゃあまずは、この街での生活基盤を整えないとな」


 良いボディを受け取った三嶋が悶絶するのを横目に、俺は話を逸らすことにした。やはり世の中には知らない方が良いことというものがあるようだ。

 すまない三嶋。


 すぐにでも生徒の捜索をしたいのはやまやまだが、まずは俺たちが寝泊まりするところを確保しないといけない。

 それに金策も必要だ。学園からこの世界の金銭をいくらか渡されているが、ここから何日この街に滞在することになるかわからない。その間追加の援助は期待できないし、自力で生活できるだけの手立てを作っておかなくてはならない。


「まずは冒険者組合に行って、この街で活動できるように申請しに行くか」

「冒険者!? 僕たち冒険者になるんですか?」

「先に宿をとったりしないの?」


 腹の負傷をいたわりながらも驚く三嶋と、いたって冷静な矢早銀がそれぞれ疑問を返す。

 

「実は俺たちはすでに冒険者としては登録済みなんだがな。この街で依頼を受けたり正当な報酬を受け取とるにはそれぞれの街で活動申請する必要があるらしいんだ。それに冒険者組合は日があるうちしか開いてないらしいから先に済ませておきたいんだよ」


 まだ学園で出発準備をしていた時、旅に出る俺と三嶋、矢早銀の分の冒険者登録は手配されていた。それも酒場を回って情報収集していたとある職員の根回しの成果の一つらしい。

 この街での活動申請するのにはそれが俺たちの身分証明にもなるという側面がある。身分証明といっても素性を保証するといったものではなく、主に金銭を稼ぐ当てがあるかどうかという程度だ。


 無論、冒険者なら誰しもが安定して稼げるというわけではないので、それが身分証明になるのも場合によりけりだが寝泊まりする宿くらいなら無いよりはマシらしい。

 ちなみに身分証明がないと宿代が倍くらいになるとのことなので、この街での活動申請は必須なのだ。


 そうして今後の方針を話し合いながら、俺たちは冒険者組合の建物へと訪れた。


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