028 鬼の一行
旅の途中、魔獣に襲われている鬼人族の一行と出くわした。
そこで、とりあえず援護射撃のつもりで放った魔術が存外に高威力で魔獣はすべて吹っ飛んだらしい。
「それであの魔獣は何だったんだ? この辺にはあんなのがウロウロしてんのか。王都から旅してる間は魔獣なんて見なかったんだが」
「あんちゃんたちは王都から来たのか。そりゃあ災難だったな」
「いや、どう考えても災難はあんたらだっただろ」
俺が言うことじゃないが、魔獣に襲われた上に魔術で爆撃されたんだからな。
「森ん中ならまだしもここらの平原に魔獣が群れてるという話は聞かねえぜ。オレらもいきなりアームストロングベアに馬車が襲われて驚いてんだ。そのうえビッグマウスウルフまで群れてきやがったしな」
どうやら街道やその周囲に魔獣がいるのは珍しいらしい。それにしては二種類の魔獣、しかも片方は群れでいたがその理由は襲われていた鬼人たちにもわからないらしい。
ともあれこれ以上あたりに魔獣の気配はない。あと少しの街までの道中で魔獣に襲われることはないだろう。
「そういえばあんたらも街に行く途中だったのか?」
街へ向かう途中だったのか、それとも街から出かけたところだったのかは分からないが、どちらにしろ馬車がなくなっては近くの街に向かうしかないだろう。
さすがに商人さんの馬車に全員は乗れないので徒歩にはなるだろうが、ここまでくれば街はそこまで遠くないはずだ。まあ俺が馬車も爆破してしまったわけだし、鬼面の子だけでも馬車に乗せて一緒に徒歩で向かうのも良いだろう。
「まあ街に向かってはいたんだがな……。すまねえがちょいと野暮用ができてな。あんちゃんらは気にせず先に街に向かってくれや」
ヴォルフガングが後ろにいる鬼面の子を気にする素振りを見せながら話す。
理由はわからないが彼らには彼らの都合があるようだ。俺としては申し訳なさがあるのだが、無理強いもできない。
本人たちがそう言うならと、結局鬼人の三人とはここで別れることになった。
それから数時間、魔獣を見かけることもなく平穏な旅路が続いた。
空は気持ちの良い晴れ模様、外を見れば地平線まで草原が続き、風が新緑の絨毯を靡かせる様はさながら大海のさざ波だ。
そんな清々しい異世界で、俺たちは魔術やスキルに関する書物に読みふけるのだった。
「おーい。三人方ようやく街が見えてきたぞ」
商人さんの呼び声に荷馬車から外の様子を見れば、馬車の行く先にまだ小さく見える程度だが確かに街が見える。
はたしてあの街に生徒たちはいるのだろうか。生徒たちが無事であの街に居ることを願いつつ、馬車は着実に街へと近づいていく。