024 スキル考察
馬車の旅に出てから数日、三嶋と矢早銀もだいぶこの世界の文字が読めるようになったようだ。
学園が用意してくれたこの世界の書物たち。多くはこの世界では欠かすことのできないスキルや魔術に関するものだ。
二人が興味深く読んでいるのはスキルに関する書物だ。様々なスキルについてどんな効果を持つのかどういう使い方をされるのかが書かれている。スキル図鑑みたいな感じだ。
スキルはこの世界の住人なら誰もが生まれながらに持っているもので、この先この世界を旅するのにそれらの情報を知っておくのは良いだろう。
「僕のスキルは『生産者』ですかね」
三嶋が首をかしげながら言う。
三嶋のスキルは魔力を使って素材を変形させ、作りたいものに加工できるスキルだ。素材や作りたいものによって難易度は変わるらしいが、素材がなくても魔力を具象化することで作り上げることもできる。
生産系のスキルは得意な品目などでいろいろと区別されているようだが、三嶋には特段そういった得手不得手はないらしい。
ちなみに、宝石加工に特化していると『細工』、薬や毒に特化していると『調合』、武器づくりに特化していれば『錬金術』や『鍛冶』と呼ばれる。
「先生はどんなスキルなんですか」
「俺のは、そうだな。なんか魔力をうまく扱えるみたいなやつだ」
「何? そのふわっとしたスキル」
「というか、それってスキルなんですか?」
ツッコまれるのもしょうがない。魔力を扱うというのはこの世界の住人なら誰でもできることだ。そもそもスキルも魔術も魔力を操って発動させるものだからな。
そもそも俺自身にもどんなスキルかは把握できていないのだ。こうして生徒の捜索の準備していた期間で、ほかの先生たちといろいろ試してみた結果、なんとなくヒトより魔力をうまく扱えるということが分かっただけだ。
「まあやってみた方がわかりやすいか。二人ともこれやってみ」
そういって二人に見せたのは魔術に関する書物だ。開いているページの内容は初等魔術基礎というものだ。
魔術とは術式に魔力というエネルギーを流すことで現象を発現させる技術だ。術式の文様でどんな魔術を発動するのか、流す魔力の量や速度でその魔術の威力や規模が変わる。
そしてその術式自体も魔力で描く必要がある。つまり魔力を操って術式を描き、その術式に魔力を流し、循環させるという工程がありそのすべてで魔力をどれだけうまく操れるかが重要になる。
俺も最初はよくわからなかったがコツをを掴んでからは、適当にサインを書くように手軽にできるようになった。
「ぐぬぬぬ……。ぅぐううう……」
「く……」
二人が真剣な顔で魔力を集中させ、術式を構成しようと苦戦している。
二人に見せたのは初等魔術のなかでも水球を作り出して飛ばす――ウォーターショットという魔術だ。二人とも書物に書かれた術式の描き方を頭に入れて術式を構成するべく魔力を練っている。
そういえば先生方と魔術を試していた時に気づいたのだが、なんとなくヒトの魔力を感じ取れるようになった。たぶん魔術の練習をして魔力の扱いに慣れてきたからだろう。
とはいえほかの先生方はよくわからないと言っていたし、これも魔力をうまく扱える?というスキルのおかげなのかもしれない。
『生産者』というスキルを使いこなしているからか、三嶋の方が魔力を出力するのがうまいらしい。魔力によって淡く浮かび上がる術式が3分の1ほどできてきている。
ただしそれもゆっくりと術式が描かれては途端に崩れてやり直しというのを繰り返していて、術式が完成する気配はしばらくなさそうだ。
矢早銀の方はといえば一行に術式が描かれる様子はない。三嶋に対する対抗心なのか心なしかちょっと不機嫌に見える。
「はあはあ。これ難しくないですか?」
「まあ先生方も2、3日じゃ魔術は使えなかったからな。まあそのほうが俺のスキルがどんなものかわかるだろ」
「そういえばそういう話でしたね」
「魔術に集中していてすっかり忘れてました」
「お前らな……。まあ別にいいんが」
右手の平を上に向け、術式を構成すべく魔力を集中させる。
そして、瞬く間に淡い光が円形の文様が刻まれ、描かれた術式を中心に水球が生成され――。
次の瞬間、弾けるような射出音とともに水球が撃ち上がり、荷馬車の幌が吹き飛んだのだった。