幕間011 眼鏡
――街までの道中。
スキルに関する書物を読みながら、ふと疑問に思ったのか矢早銀がつぶやく。
「そういえばなんだけど。工平って眼鏡してるけど、旅の途中で壊れたらどうするの? 今のうちに学園に帰った方が良いんじゃない?」
「矢早銀さんは心配してくれてるの? それともにただ僕を邪険にしてるの?」
「心配しているわよー」
「感情が乗ってないんだよな~」
三嶋が突っ込みながら項垂れる。
一応この世界にも眼鏡はあったはずだ。城下町でも見かけたしな。しかしながら旅の途中で壊してしまうとすぐには調達できないだろうし、なかなか困りそうだ。
「予備とか持ち歩てるのか?」
「いえ、普通にスキルで直しますけど」
「――っち」
「え? 舌打ち」
「三嶋のスキルはほんと便利だよなー」
「先生少しは矢早銀さんの態度を注意してくださいよぉ」
馬車の旅はまだまだ続く――。
ーーーーー
「眼鏡といえばこんな話がある」
「え、眼鏡の話まだ引っ張るんですか?」
俺もちょっと眼鏡の小話を思い出した。
それは俺が境天寺学園に非常勤講師として雇われてから半年ほどたった時だ。
「ある日、職員室に入ると全男性教諭のデスクに眼鏡が置かれていたことがある」
「なんで眼鏡が? というか、男の机にだけ?」
「よくよく聞いてみると、眼鏡を置いて回ったのは天地先生だったんだが」
「ああ、天地先生って真面目でクールな感じに見えて、結構おかしなことしますよね」
「しかも真面目な顔でそういうことしてくるのよね」
二人も心当たりがあるんだろう、少し複雑な顔をして同意してくる。
「後で理事長になんでこんなことしたか聞かれててな。今眼鏡男子にはまってるからですが? って、平然と答えてたんだよな」
「なにそれ怖い」
開き直りというより当たり前のことをなぜ聞いてくるのだと、不思議がってる様子さえあった。
そして、後にも先にもあれほど困った顔をした理事長は見たことがなかった。