023 旅程休息
三嶋のスキルによって3人分の釣り竿を作ってもらった。
さて、釣りに興じるとしよう。
澄んだ川には少なくない魚が泳いでいる。
餌には黒パンのくずを使って、3人で釣りを始めたのだが……。
「釣れねえな」
「釣れないですね」
「ひょいっと。これで4匹目ね」
俺と三嶋が苦戦する中、矢早銀が異様に上手い。
釣り竿をひらひらと揺さぶり、魚の向きと距離を見計らって一気に引っ張れば口に針が引っかかって釣れるという。
途中から餌すらつけずにひょいひょい釣り上げている。しかもわざわざ針を外す手間もかけず、釣り竿をちょこっと震わして器用に取り外している。カツオの一本釣りじゃねえんだぞ……。
「ちなみに矢早銀の使っている釣り針も返しついてるよな」
「もちろんカギ状に作ったんですけどね。こんな釣り方すると思ってないし」
「矢早銀って釣り部かなにかなのか?」
「うちの学校に釣り部なんてないですよ。矢早銀さんは弓道部だったかと思います」
三嶋と話しながら、横目で矢早銀の姿を見る。
背筋の伸びたきれいな立ち姿に、女子の平均よりも少し高いくらいの背に、そしてとても控えめなスタイル。
「そうか。弓道部か」
「そうですね。弓道部です」
「何を二人で納得しているの?」
矢早銀の声色が怖い。
「よ、よし。魚釣りもこのくらいで良いだろ」
とりあえず話を逸らしておこう。
気が付けば10匹は釣れていた。結局全部、矢早銀が釣ったのだがその辺はあまり気にしないでおこう。
「それでこの魚どうやって食べるんですか?」
どうやってと聞かれても、俺はそんなに凝った料理はできない。
異世界だとどうか分からないけど、川魚は寄生虫が怖いというにわか知識はあるので火を通した料理にはしたいというくらいだ。
「まあとりあえず三嶋、包丁とまな板とフライパンとコンロと調味料を頼む」
「ここぞとばかりに頼ってきますね。というか、コンロと調味料はさすがに無理ですよ」
ダメもとで料理に必要そうなものを全部頼んでみたが、さすがに無理だった。
「魔力でどうにかならないのか」
「いやコンロの仕組み自体はなんとなくでいけるかもしれませんけど、燃料みたいなものは難しいです」
「思ったより使えないな」
「ひどくないですか?!」
「確かに工平が生成した調味料は口に入れたくないわね」
「それは僕自身もちょっと思うけど、わざわざ口に出さなくて良くない?!」
「口に出さないと伝わらないことってあるでしょ」
「だからわざわざ伝えないでっ!」
まあ火は普通に石を積んで薪を燃やすとしよう。
さて調味料はどうしようかと考えていると、矢早銀がいつのまにか荷馬車に置いていた荷物から見覚えのある万能調味料を取り出してきた。
「調味料なら学園の調理室から拝借してきたカレー粉があるのでそれにしましょう」
「矢早銀……。お前準備良いな」
「先生そこはちょっと注意するところなんじゃ」
何はともあれ無断拝借のカレー粉を使った川魚のムニエルは間違いのない味だった。
食事のあと、三嶋の作った道具やカレー粉について商人さんがしつこく聞いてきたが、それはまた別の話だ。