022 旅程休息
失踪者捜索の旅。俺たちは王都を出立して西側に位置する街に移動している。
予定では4日ほどの馬車の旅で、今日で3日目だ。
目の前には王都北西の山脈から南部へ続く緩やかな川が流れている。この川を渡れば、今日を入れて2日ほどで町に着くだろうと荷馬車に乗せてくれている商人さんが言っていた。
今は馬の休息も兼て、俺たちも河原でゆったりと景色を楽しんでいる。
川の水は川底も泳ぐ魚もはっきりと見えるほどに透き通っている。科学技術も工業も発展していないし、環境汚染もほとんどないのだろう。
「うん。魚が食べたいな」
「どうしたんですか急に」
川の魚を見て思わずつぶやいてしまった。
ここ数日、食事はこの世界の一般的な保存食だった。黒パンと干し肉――初めのうちは目新しさもあって苦も無く食べていたのだが、数日続けば飽きも来る。
パンは硬いし干し肉はしょっぱい。
「せっかくのきれいな川だし魚でも釣りましょうよ」
「いや釣ろうにも道具がないしな」
「釣り竿なら僕が作りますよ」
作るといっても竿になりそうな棒も糸も針もない。
しかし三嶋はそんなこと気にもしていない様子だ。
「できれば木材とかあればよいんですけど……」
「工平、これで良い?」
どこに行っていたのかいきなり現れた矢早銀が薪を手渡す。
「この薪どうしたの?」
「商人さんにもらってきたわ。魚を釣るのに使うって言ったら、訝しんでたけど押し通してきた」
押し通したのか……。
しかも釣りの話をはじめてすぐに薪を用意してくるって、すごい段取りの良さだな。
「しかし、そんな薪で釣り竿が作れるのか?」
「まあ、見ててくださいよっと」
軽く答えながら、三嶋が両掌に薪を乗せる。
しばらくすると薪が淡く光を発しながら少しずつ繊維がほどけていく。その繊維が踊るように揺蕩い、一か所に収束していく。
収束した繊維が少しずつある形へと縒り紡いでいく。端は手でちょうど握りやすい太さから先へと進むほどに細く、まさしくそれは釣り竿の形だ。
その変化はそれだけでなく、竿の先からは細い糸が垂れ下がり、先にはクルンと巻き返した釣り針までついている。
「これが僕のスキルですよ。どうですか、すごいでしょ? すごいんですよこれが」
「なるほど、魔力でいろいろ作れるスキルか」
「そうなんですよ。素材と作りたいものを理解して、魔力を使って分解、そして再構築させるんですよ」
「……どこの錬金術だよ」
三嶋のスキルがなんでも作れる便利スキルかといえば、そうでもないらしい。
まず作りたいものの構造や仕組みを理解していないとまともに使えるものにならないし、複雑なものほど魔力が必要とのこと。分解するのも素材によって易し難しがあるようで、それに魔力効率が変わってくる。
「それにしても糸と釣り針までここまで精工に作るとはな。これも薪から作ったのか?」
糸は細い上に強度も高い。針も金属質で返しもきれいに整形されている。
「いやあ、このスキルは物質の組成までは変えられなくて、木の素材からは木製のものしか作れないんですよ」
「なるほど等価交換というやつか」
「そういうことです。なんで、素材がないものとかは魔力を変質させて作り出します。モノによって難易度は上がりますし魔力も使いますけど釣り糸と釣り針くらいならこの通り余裕ですね」
「おい、等価交換はどうした」
魔力でどんな素材の代わりにもできるって、理論上魔力があればどんなものでもつくれるってことだろ。かなりヤバイだろそのスキル。
「そうでもないんですよ。素材からきちんと組み立てたものはいつまでもその形のままですけど、接合部分を魔力で固定してるものとかは時間が経てば魔力が消えて壊れますし、魔力だけで作ったものはしばらくしたら消えちゃいますからね」
いくらかの制限はあるようだが、それでも有用すぎるスキルだ。
なんにしても釣り道具はできた。うまい昼食のために釣りの時間だ。




