003 異世界は唐突に
最初は小さな地震のように、静かにそして不穏な揺れが続いた。
足元から伝わる振動が窓や扉をガタガタと鳴らし、校内の蛍光灯がしばらく明滅を繰り返して、やがて消えてしまった。
すぐに収まるかと思ったが一向に収まる気配を見せず、次第に近くにいた生徒たちも動揺し始めている。
「窓から離れて、不用意に動くんじゃないぞ」
揺れは大きくないが一応、生徒たちには最低限の注意を促す。
余震に続いて大きな本震が来るのではと身構えていたが、肩透かしのように2分ほど続いた微震は静まった。
思いの外長く続いたことも気になるが、この後さらに大きな地震が来ないとも限らない。
まわりの生徒に避難を呼びかけるべきか悩んでいると、妙に辺りが騒めきだした。
「ちょっと窓の外。なにあれ?」
「おいおい、どうなってんだよ」
「どこだよここ」
「あれってお城?」
「なんだよなんだよ。俺は夢でも見てんのか?」
「一体、何が起こってんだ……」
窓の外を見た生徒たちが口々に混乱と不安を吐きだす。
俺も窓から外を伺うが、学園内は地震の被害もなくいつも通りの姿を見せている。しかしながらその先、学園の敷地から外は全くの別世界が広がっていた。
「先生、コレって……」
隣にいた矢早銀が疑問を口にするが、俺にもこの状況がいったい何なのかはわからない。
先ほどまで学園の外は綺麗に整備された住宅地、東西に延びる高速道路、街の端に広がるのは有名企業の工場や倉庫群だったはずだ。
今学園の外に広がるのはどこまでも続く草原だ。
広大な草原を真っ二つに横切るように一筋の土色が見える。草原を横断するための道なのだろうか、いくつかの馬車が往来しているようだ。
その道の先を視線でたどると、大きな壁に囲まれた街が目に入る。壁の内側にはヨーロッパなどでよく見るような石造りの建物が並んでいる。
そして、その街の中央――街並みを見下ろすように巨大な城が建っている。
日本的なお城ではなく、西洋風のキャッスルと言うとイメージが湧きそうな様式だ。
白い石造りの外壁は圧倒的なまでの重厚さを誇りつつも各所には緻密な意匠が凝られ、その堂々たる威光を見る者に知らしめている。
頂上に大きくたなびく群青の旗には、大きな翼を広げた二対の獅子が金刺繡で描かれている。
別段すべての国旗を覚えているわけではないが、少なくとも義務教育で習ったりテレビやネットでも見たことはないデザインだ。
――キンコンカンコン。
目の前に起きた状況に混乱する中、スピーカーから流れる聞きなれた鐘の音が現実に引き戻した。
騒いでいた生徒たちもその日常の音にスピーカーへと注意を向け、固唾をのんで続く言葉を待つ。
そして流れ出したいつもと変わらない冷静な声音が、学園内にいるすべての人たちへと、この状況で考えうる最悪の状況を回避させた。
「まずは皆さん。慌てずに冷静に指示に従ってください。学園内にいるすべての生徒諸君、担任の先生方は直ちに自分のクラスに戻り待機してください。そして――」