幕間008 三嶋工平
2-Dのほとんどの生徒が失踪した中、学園に残った二人の生徒。
クラスメイトのみんなが学園を抜け出す中で、よく残る選択ができたものだ。
矢早銀は普段からまじめな印象があるが、三嶋はみんなの行動に流されそうな気がしたんだが。
「先生聞いてくれますか僕の話を……」
なんだか深刻そうに話し始めた。
「それはまだ早朝の早い時間のことでした――」
「三嶋のやつ語りだしたな」
「しょっぱなから日本語が不自由ですけどね」
「教室の中が静かに騒がしいのに気が付いて目が覚めたんですが――」
「静かだったのか騒がしかったのかどっちなんだ」
「気が付いてから目が覚めるって、器用なのね」
「あの……。とりあえず聞いてもらっても良いですか?」
「ああ、わるいわるい」
「手短にね」
「由良先生が起きないように気を使ってたみたいだけど、それでも枕元でこそこそ動かれたら目が覚めんるってなものです。それで何してるか聞こうとしたんだけど、そこで加藤と鈴木の話し声が聞こえてきて。僕を起こさなくって良いのかって聞く加藤に別に良いだろって鈴木が話していて。なんか僕がいつもみんなの誘いを断ってるから今回もどうせ断るだろって。だっていつもは、やれファミレスに行こうとかカラオケに行こうとか、僕には興味のないことばかりだからそりゃ断るじゃないですか。逆に僕が龍遊館に行こうって言っても誰も来ないでしょ。それを一方的に僕が付き合いの悪い奴みたいに好き勝手話されても困るし、そんな陰口の中で起きるに起きれないじゃないですか。それに――」
「工平、長い」
矢早銀が冷たく話を切る。
三嶋の気持ちも少しわかるが、ちょっと自業自得なところもあるような気がする。
「つまり三嶋は、クラスのみんなに誘われなかったから付いていかなかったと」
「それはその通りだけど言葉にして言わないで! ちょっと悲しくなるから!」
「つまり工平は、クラスのみんなに嫌われていたから誘われなかったと」
「そこまではっきりは言ってなかったでしょ!!」