020 出発
理事長から失踪者の捜索を指示されてから3日後、校門で捜索に向かうメンツと見送りのための先生方が集まっていた。
集まっていたのだが……。
「先生、よろしくお願いします」
「パソコンの先生、よろしくー」
そこに集まったのは矢早銀と三嶋だった。二人とも制服ではなくこの世界でよくみかける旅装束のような出で立ちだ。
かくゆう俺も同じような服装が用意されている。この三日で情報収集やら物資調達が行われていたらしい。
城下町の市勢の調査から行商人への聞き込み。物資については元の世界の物であたりさわりのないモノを商人に売ったお金を元手にしているとのことだ。
「なんでお前たちがいるんだ?」
嫌な予感を抱きながらも念のために尋ねる。
「何言ってるんですか先生。冒険ですよ、冒険。折角の異世界でずっと教室に閉じこもってるなんてつまらないじゃないですか」
「クラスの子たちのせいで悪目立ちしてるし、学園にいるよりはマシでしょ」
二人から微妙に聞きたいこととは違う答えが返ってくる。
まあ二人なら失踪した生徒とも面識はあるだろうが、結局生徒を学園の外に出してしまうことになるのは良いのだろうか。
「別に生徒たちを学園に閉じ込めておきたいわけでは無いのです。学園の外であっても安全を確保できているなら、生徒たちだけでも生きていける術を確保できているなら、それも良いのです。問題は我々が生徒たちのことを把握できていないことと、外で何かあっても我々が助けに行けるとは限らないということを生徒たちが理解していないことです」
確かに安全という意味なら学園の内外はあまり関係ないだろう。何せ異世界で王城のすぐそばにいるのだ。昨晩のように侵入者が出る可能性もあるし、何者かに襲われる可能性だってゼロではない。
とはいえ、生徒たちを自由に外に出すというのも監督不行き届きというものだろう。少なくとも居場所くらいは把握しておきたいというのが学園の気持ちだ。
そしてここは現代日本ではなく何が起こるかわからない異世界だ。いつでもどこでも助けてくれる人も法もない、どんな行動にも自己責任という重みが伴う。それをまだ高校生の生徒たちに自覚させるというのも難しいのだろうが。
だがしかし、二人を連れて行くということは俺の責任が増えるんだが。
まあ、とは言っても俺一人で異世界を捜索するよりかは二人が同行してくれれば遥かにマシであるのも事実だ。
「いいじゃないですか先生。僕のスキル知ってるでしょ。冒けn――捜索の役に立ちますよ。それに、他の生徒だって矢早銀さんが居れば下手に逆らわ――っ痛い」
「工平、無駄口が多い」
「矢早銀さん。口より手が先に出るのはどうかと――。いえ、何でもないです」
矢早銀から注がれる鋭い視線と拳に、軽口を続けようとした三嶋が押し黙る。
なんとなくこの二人の力関係もわかってきた。正直それは不安材料な気がしてならないが。
「周東先生が二人の身を案じるのは分かりますが、同行は二人の意志でもあるのです。それに矢早銀さんが言っていたように2-Dに対する目もやさしいものばかりではありませんし、彼らだってクラスメイトが居なくなって心穏やかではいられないでしょう」
理事長の言うように学園にいるよりも外に出た方が二人にとっては良いかもしれない。
「そういう事なら。まあ二人がいれば捜索に心強いというのも違いないですし。三嶋も矢早銀もどちらかというとしっかりしてる方ですし、二人のことは任されますよ」
そうして本人たちの意志と理事長の承認もあって、失踪した生徒たちの捜索には俺、三嶋、矢早銀の三人で行くこととなった。
ともあれ異世界の旅だ。少なからず楽しみな気持ちと不安を持ちつつ、俺たちは出発するのであった。