019 捜索
「周東先生。あなたには生徒の捜索に行ってもらいます」
「お断りします」
「では頼みましたよ」
どうしよう。俺の意志は尊重されないようだ。
仁科先生の連絡どおり理事長室を訪れた俺は、理事長から開口一番に生徒たちの捜索を指示されていた。
「ちょっと待ってください。どうして俺が」
俺はあくまで非常勤講師として、限られた授業にのみに関わっているだけだ。
選択科目で俺の授業を受講している生徒は学園のほんの一部で、というか数人だけで他の生徒に関しては名前も顔もうろ覚えだ。それに加えて今は髪の色だけでなく体型まで多少にかかわらず変わっている。捜索するにしても相手のことが分からなくては探しようがないじゃないか。
それに比べれば他の教師の方々は学校行事なり部活動なりに参加したり、授業以外でも生徒と関る機会が多い。それだけ生徒のことをよく知っているだろう。
多少見た目が変わっていても、顔や声で判別できるかもしれない。捜索する相手の名前すらピンとこない俺が行くよりもよほど生徒たちを見つけられる可能性が上がるだろう。
「スキルのことは知っているでしょう」
俺がべらべら御託を並べるのに対し、理事長は静かに言う。
「私のスキルはどうやら他人の素質のようなものを見極めるものなのです。ええ、元々人を見る目には自信はありましたが、今はそれだけではありません。おそらく魔力というものが影響しているのでしょうが、目に力を込めてみるとその人の周りを淡い光が纏っているのが見えるようになったのです」
目に意識を集中させると相手のオーラのようなものが見えるらしい。理事長の予想では魔力と呼ばれるものに起因するのではないか、とのことだった。
「周東先生。あなたのオーラは他の人とはかなり違います。だからあなたに賭けてみようと思うのです」
「賭けてみようって、それって俺のオーラが良いのか悪いのかはわからないけどってことですよね」
「面識のことも安心してください。なにも周東先生一人で捜索に出てもらうわけではありませんから」
話題を逸らされた。すでに不安事は面識のことだけではなくなったんだが。
まあ当たり前だが、よく知らない世界で一人で人探しに行けということはないか。しかし学園の方も人手がいるだろうに、一体誰と行くことになるのか。
「それでは気を付けて。生徒たちのことを頼みましたよ」
そう締めくくって理事長の話は終わった。
捜索に同行する人物のことは本人の意志を確認してから伝えるとのことだ。俺には意思確認はなかったんだけど。
今日明日出発するというわけでは無く、可能な限りの準備と情報収集を今しているのとのことで、それまで俺は自分の準備をしていてくれとのことだった。