017 残った生徒たち
ほとんどの生徒が失踪した2-D。その残った二人の様子を見るべく教室へと向かう。
俺は非常勤講師で受け持っているのは一部の生徒しか受講しない選択科目だ。それよりも一般科目の授業でクラス全員と接している仁科先生や佐藤先生の方が二人も安心するんじゃないだろうか。
そう思ったのだが、どうも残った二人というのが俺の選択授業を受けている生徒とのことだった。
他の先生方の反応を見るに、クラスメイト全員が失踪した中でそれに追従せずにおとなしく残っているならその二人だろうと、どこか納得している様子でもあった。
その認識はそこはかとなく不安になるんだが、まあこの状況で心細かろう生徒たちを放っておくわけにもいかない。
まあパニックを起こしているよりは冷静でいてくれる方が良い。そう考え、早々に観念して承知したのだった。
例の2-Dの教室まで行ったところで、一度窓から中の様子を確認した。
教室には報告通り生徒が二人だけで待機している。二人とも近くの席に座るでもなく、自分の席に座り、とくに会話していた様子もなくおとなしく――というよりは自分の作業に集中しているようだ。
一人は白髪に眼鏡の男子生徒で――まあ昨日までは白髪ではなかったのだが――、三嶋工平という生徒だったはずだ。
三嶋は机の上にどこから持ち出したのか工具やら不思議なカタチの金属片を広げて、何かの部品を組み立てては取り外している。見た限りバネ仕掛けやトリガーのような形状に見えるので後でちょっと話を聞かないといけなそうだ。
もう一人は確かこの異世界に来る直前に課題の質問に来ていた矢早銀桜だ。彼女の髪もまた薄い茶髪に変わっていたが、綺麗に切りそろえられた前髪だけは依然と変わりはない。
異世界ではネットもつながらず大したことは出来ないだろうに、タブレット端末に何やら真剣な顔を向けている。
俺が教室に入ると、二人とも少し意外そうな表情を浮かべた。
まあ普通ならクラス担任が戻ってきたか、学年主任や生徒指導の先生のような学校行事などで先頭に立つ先生が来るだろうからな。一応面識があるとはいえ、ほぼ授業でしか会わない俺が来るとは思わないだろう。
「あれ、パソコンの先生?」
「由良先生はどうしたんですか?」
二人から当然の質問が飛んでくる。
「まあ、ちょっと色々あってな」
「みんなどっか行っちゃいましたしね」
「だからって担任が取り乱してどうするのよ」
由良先生のことをぼかそうとしたが失敗した。
二人とも呆れた感じで言うが、三嶋の方はやや同情の色が見える。
生徒たちの気持ちもわからないでもない。
今の状況で唯一と言って良い頼れる大人は教師だ。それが生徒たちのことを放ってこの場にはいないのだ。
無論、教師とて人間なので完璧とはいかないが、大人として、教師として、そして給料をもらっている社会人としての責務は存在する。職務規定には異世界転移した際の振る舞いは書かれていなかったがな。
まあ、由良先生も少し休めば落ち着くだろう。
そう気軽に考えていたが、状況はさらに悪くなるのだった。