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011 夢

 辺り一面が泣きだしたくなるほどに空っぽだった。色はなく、星の無い夜空のようでもあり、生命のいない深海のようでもある。

 そんな虚空に自分だけがぽつねんと浮いている。手足を動かしている感覚はあるが、この何もない空間の中では自分自身すら見ることはできない。


 そんな何もない空間に、いつの間にか小さな光が現れた。

 光と言っても瞬くような鋭い明かりではなく、夜空に浮かぶ星のような仄かでありながらも力強いものだ。

 粒子とも言えるその小さな光はどんどんとその数を増やしていく。そして散り散りだったそれらはある箇所を中心に集まっていき、銀河を構成する数多の星々のように光の粒子たちの動きは徐々に規則性を持っていく。


 光の粒子の数はいつしか満天になっていた。悠々たる流れで揺蕩っているそれらは、次第に何かの形を浮かび上がらせてきた。

 それはすごくおぼろげではあるが確かに何かの形だと分かる。


 最初は一等明るい星々を線で結んだ星座のように曖昧模糊な様式だった。

 それらは時間と共にその数も具体性も上がり、鮮明な形相(けいそう)を見せ始める。

 あやふやな星座に見えていたそれは見方を変えればどんなものにも見えてくる。ときに大都会の路線図のように、あるいは化学物質なんかの構造式のように。それがプログラムのソースコードに見えたときは流石に仕事のしすぎかとちょっと不安になった。


 だがそう見えてしまったからにはそれをきれいにしないと気がすまない。

 リファクタリングだ。――これはさすがに病気かもしれないな。


 光の粒子はある程度は自分の意志で動かせるようだ。大きな流れのようなものはあるが、細かい流れを作ることで多種多様なカタチを創り出せる。

 それにしても最初からあるカタチや今も大きな流れから自然にできていくカタチは、どうも不格好というか冗長に見える。


 気になったら直したくなるのが人のさがだろう。

 同じものを二度繰り返さないように、長ったらしいものを可能な限りコンパクトに、一つ一つの役割ごとに分割してそれぞれを流用できるように、そして何よりも読みやすく整える。

 そうして一度手を入れ始めるとどんどん深みにはまるのも世の常だ。ひとつ直せばまたひとつ気になる。それも直せば今度はそれに紐づいていた箇所にも影響して手を入れたくなる。そうこうしていると最初に直したものにもっと良い方法があることを思いつく。

 延々と、際限なく、そんな作業が続きどれくらいの時間が経っていたのだろうか――。


『―――い。―――先生』


 光の粒子の調整にのめりこんでいると、微かに俺を呼ぶ声が聞こえた。


『おーい。周東先生』


 思考に酸素を使いきったのか頭を締め付けられるように苦しい。妙に重い頭をゆっくりと持ち上げ、何度も俺を呼ぶ声の主へと目を向ける。

 寝起きでボンヤリとした視界にようやく焦点が合うと、俺を起こしに来たであろう緑髪の女性がそこに立っていた。



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