幕間004 王国
「よもやあれらが全て異界漂流者とはな」
トルメスト王国の王――セオドア・フィリップス・トルメストが重く静かに息を漏らす。
この場にいるのはトルメスト王とその治政を長年支えてきたトリスタン宰相、諸外国でも戦場の絶対堅守として有名なザカリー騎士団長、そして各大臣たちだ。
「今朝いきなり王城の目の前に現れた時はどこの国の襲撃かと思いましたがな。あの不思議な建造物、なにやら小部屋に仕切られておるようで、それぞれ20名ほどの人間がいるようですな。外部から確認した限り300名以上はあの建造物の中におるとか」
「奴らが全員戦闘特化のスキルなんぞ持とうものなら、どんな国も攻め落とせるでしょうな」
異界漂流者は得てして有用なスキルを持つものが多い。戦闘系となればそれこそ一騎当千の強者となりえるほどであり、過去にはその強さによる偉業から勇者と呼ばれた者さえ存在する。
国内に現れた異界漂流者が王国に牙を剥かないとも限らない。ザカリー騎士団長が警戒するのもやむを得ないだろう。
「あちらから交渉を持ちかけてきたのだ。そうそう敵対することもないであろう」
「彼らはこちらの世界のことは何も知らない様子。上手く交渉を進めることができれば、王国に大いなる利益をもたらしてくれることでしょう」
宰相は此度の邂逅をいかに国益に繋げるか、頭の中でそろばんをはじく。
「まかり間違っても他国や魔術協会に出し抜かれることは無いようにな」
「こちらの騎士団に入ってくれるのであれば話は早いですが、連中が漂流者ということを考えると難しいでしょうな。となれば後は冒険者か――」
「表向きは友好を示すとして、そのように誘導するのが良いでしょうな。とはいえ数人はこちらに確保しておきたいものですがね」
それが人質の意味も持つのは言うまでもないだろう。
「学園と言ったか。こちらの貴族会とは少々異なるようであるが」
「ええ、王権や貴族いう構造については理解しているようでしたが、彼らは我々とはまったく異なる統治方法を支持しておるようで。平民が全員同程度の教育を受けられるとか」
「あの建造物がその教育を受けるための機関ということか。つまりはあそこにいるほとんどが教育を受ける身、つまりはまだ子供という事だな」
「――子供、であるか」
「はい、陛下。そこに付け入る隙があるかと」
その場にいる誰ともなく、ほくそ笑む声が漏れる。
話を進めていた国王や宰相たちだけではない。ここにいる者、そして現状を知るものすべてが、何十人何百人という異例の数の異界漂流者たちに、国益私利私欲様々な思惑を重ねていた。