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096 土宮金華1

 矢早銀桜は逃げ込んだ建物の中で状況を整理していた。

 他の生徒を襲撃していた久留鞠蹴斗と糸識葉子の情報を求めて貧民区を訪れ、自分も含めた2-Dのクラス担任である由良純佳と数日ぶりの再会となったのは先刻のこと。

 先日会ったときからやや精神状況が不安定そうに見えていたが、今日はさらに状態が悪化していた。

 そんな由良の傍に、失踪していたはずの他のクラスメイトの姿まであった。


 そのクラスメイトの様子もまた普通ではなかった。

 どこか気配が希薄な感じ。そこに居て、明らかにこちらに注意を払っているが、まるで監視カメラやAIロボットに見られているようなどこか機械的な印象を受けた。

 その違和感は間違いではなかった。唐突にそのクラスメイトが矢早銀たちへと攻撃を仕掛けてきた。


 クラスメイトの一人が放ったのは石も溶かすほどの熱線だった。

 高速で空気を焼いて奔る熱線を矢早銀は難なく躱すことが出来た。

 昔から荒事に少なからず縁があったというのもあるが、それを抜きにしてもこの世界に来てからはやけにそういう気配に敏感になっていたからだ。

 自分に対する敵意や悪意、そういったものへの危機感を察知できるようになっていた。

 そう言うことに詳しそうな鬼人達にも聞いてみたが魔力の流れと言うのが関係するらしい。正直言って未だに魔力というモノをはっきりと自覚できていない矢早銀はそういう勘が働くだけだと割り切っていた。


「水張さんは先生たちが対処してくれてるみたいね」


 先ほど建物を液化させていた女生徒――水張融はノエルが組み伏せた後、周東のいる建物へと担ぎこんでいった。

 正直足場を取られるあのスキルは厄介だったので助かる。できれば今のうちに水張たちを操っているであろう由良を抑えたいが、他にも操られている生徒がどこに潜んでいるかわからない。

 由良が生徒を操っているというのは由良の言葉からの予想だが、おおよそ間違ってはいないだろうと矢早銀は確信していた。一緒にいたクラスメイトの様子もそうであったし、直接久留鞠と打ち合ったことで彼らが正常でないことは明らかだ。


「そういえばノエルさんが目に見えない何かを斬るような動きをしていたけれど。さっき一瞬見えた由良先生から出ていた糸みたいなのが関係してるのかしら」


 とは言え矢早銀が見えたのは糸の束が噴出したときの一瞬だけで、他の人と同様にそれ以上は見えていない。

 見えないものは仕方ない。襲ってきたなら迎え撃つだけだと、矢早銀はすぐさま思考を切り替える。


 そしてまずは武器の調達が必要だと周囲を見渡す。

 逃げ込んだ建物は石造りの3階建てで、ひとフロアが学校の教室ほどの広さだ。

 扉も窓もただ石壁がその形にくり抜かれているだけのようなもので、他者の侵入どころか風も好き放題に通り過ぎていく。


 ざっと見渡しても家具と言う家具もなく、部屋の隅に落ちている寝床代わりのボロ布の存在がかろうじてここに誰かが住んでいることを窺わせる。

 本当にただ雨風を防げる程度の簡素な空間だ。

 まともな武器はおろかろくな鈍器も無い。

 武器を探すために他の部屋も確認しようかと思ったが、先に武器のあての方から転がり込んできた。


 どかどかと何かを打ち付ける大きな音が周囲から響く。

 工事現場のような破砕音が徐々に近づき、ついにその音の元凶が部屋の壁を突き破ってきた。

 壁を砕いて現れたのは何本もの石柱だ。様々な角度で突き出した石柱が破城槌のように建物の壁や天井を砕いている。


「ぐぁぁああ。今のは絶対折れた、肋骨とかあばら骨とかそういうのが折れた気がする!!」

「――工平、バット」


 崩れた石壁に紛れて転がり込んできて騒ぐ三嶋工平を冷ややかに見降ろして淡々と言い放つ。


「えー、壁を突き破って転がってきたクラスメイトへの第一声が凶器の催促ってどうなの……。怪我してるかもしれないんだし、もっとこう、ほら、何か掛ける言葉とかあるんじゃない?」

「肋骨とあばら骨は同じ部位よ」

「そういう事じゃなくて……。っえ、そうなの? いや名称のことはともかく。この状況なんだから怪我はしてないかとか無事だったのかとか色々心配してくれるところでしょ」

「工平……。頭は大丈夫?」

「その心配は怪我を気にかけたものだよね! 他意は無いんだよね?!」

「うふふふ。あなたち本当に仲良しなのねぇ」


 この状況でも相変わらずな二人のやり取りに、三嶋と同じく崩れた壁の向こうから跳びこんできていたエリアーヌがゆったりとした口調で言う。


「エリアーヌさんも無事でなにより」

「えぇ、まだゆっくりは出来そうにないけれどね」


 話しながらも油断なく、崩れた壁の先を警戒している。

 石材からそのまま削り出したような何の装飾も無い円柱形の石柱。壁を崩してバラバラに突き出したその間を潜り抜けて、一人の少女が姿を現した。


「土宮さん……」


 その懐かしい姿に、矢早銀は少し悲し気な声色を滲ませて呟いた。


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