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087 報告会

 俺が冒険者組合へと情報を聞きに行っている間に、生徒たちの方でも色々と状況が動いていたようだ。

 俺達は宿の一階にある食堂に集まって状況を整理することにした。

 最初は部屋にしようかと思ったのだが、なんだかんだ合流できた生徒の数も増えたのでさすがに三人部屋に集まるのは狭くなったのだ。


 この場にいるのは俺と三嶋と矢早銀、冒険者としてこの街で活動していた轟と保倉、そしてマフィアの下で雑用を任されていた野津の7人だ。

 まずは三嶋たちから市場で起こった騒動についての話を聞く。

 以前、野津を襲った人物に再び襲撃されて戦闘になったらしい。相手のスキルのこともあり危ないところをとある集団に助けてもらったとのことだ。

 襲撃者はマフィアからの情報通り体中から刃を突き出してくるスキルを使う。襲われた生徒3人に怪我が無くてホッとした。


「それで襲ってきたやつはやっぱり学園の生徒だったのか」

「今度ははっきりと見たし、コイツラも一緒だったから間違いはねえっすわ」


 野津がそれでもまだどこか納得がいかなそうに答える。

 相手が失踪した生徒の一人――久留鞠蹴斗だということははっきりしても、その久留鞠に命を狙われる覚えは無いのだろう。

 三嶋と矢早銀も複雑な表情だ。

 久留鞠は2-Dの生徒で、つまりは三嶋と矢早銀のクラスメイトということだ。


 2-D、あのクラスの生徒か……。

 学園から失踪した生徒の中で、2-Dの生徒は三嶋と矢早銀以外の全員が姿を消している。

 クラスのみんなで行動しているのかと思ったが、襲ってきたのは久留鞠一人だけだったのか。


「ああでも。逃げるときに手助けした人がいたと思います。地面がいきなり突き出てきたので土を操るようなスキルか魔術を使う仲間がいたんじゃないかと」

「姿は現さなかったから誰なのかはわからないけどね」


 三嶋の話に矢早銀が意味ありげに補足する。

 もしかしたらクラスメイトの誰かだったかもしれないからだろう。


「なるほどな。それで助けてくれたってのは――」

「3年の縫条ってやつです」


 その名を聞いて気になるところがあったが、今は考えても仕方ないだろう。


「運動以外は何でもできて成績も優秀だって聞いたことはあったけど、あんな護衛を引き連れてるなんて思わなかったぜ」

「護衛?」


 冒険者でも雇っていたのかと思ったがそういうことでもないらしい。

 この世界には(元の世界でも時代と場所によってはあったが)奴隷制度が存在する。

 因みに王国で認められている奴隷はヒト種以外に限られているらしい。


 この街を少し出歩いただけでも多くの種族を目にする。

 彼ら彼女らは角があったり耳や尻尾があったり、羽が生えているのも鱗に覆われていることも珍しく無い。

 元の世界でも肌の色や見た目が差別の対象になることが少なくなかった。もちろん宗教観というさらに厄介な理由もあるが、雑に言ってしまえば価値観の違いということだ。


 人は自分の常識と他人の常識の隔たりがそれぞれの許容を超えたときに倫理感が揺れる。

 その中には自分の弱さを隠したい、間違いを認めたくないという部分もあるだろうが、そんなものは当事者にとっては何の言い訳にもならない。

 多勢から無勢へと、力の大きい者から力の小さい者へと、誰かの正しさと言う不確かなものをさぞ公明正大なもののように謳い始めるのだ。


 王国の奴隷対象がヒト種以外と定められているのも根底にはそういった差別意識があるのだろう。

 縫条が連れていた奴隷と言うのも青猫族、月兎族、狼人族という様々な種族だったそうだ。

 ただし奴隷と言っても縫条が奴隷たちを虐げているということは無かったらしい。


「やけに慕われているみたいだったし、心配するようなことは無さそうだったけれど」

「どっちからと言うと主人と従者ってイメージでしたね」

「変わった連中だったけどなんだかんだ楽しそうだったしな」


 縫条と会った三人がそれぞれ感じた通りに話す。

 もちろん表向きはそう見せているだけという可能性も無いわけではないが、三人が実際に見てそう感じたのならそれを信じたいと思う。


「それで、縫条はまだこの街に居るのか?」

「そうみたい。この街というよりあの先生が吹き飛ばした森関連で仕事があるって言っていたわよ」

「なんか奴隷商の仕事を手伝っているらしくて、先生には改めて連絡するって言ってました」


 奴隷を連れていたと思えば奴隷商で働いているとはな。

 一応は国に禁じられている商売と言うわけでもないし、マフィアと騒動になっている野津や久留鞠の現状よりはまだマシと思っておこう。

 その生徒が『縫条』だというのも、そこまで心配していない理由の一つではあるがな。


 いろいろと問題は残っているが、ひとまずは居なくなった生徒のうちの二人がこの街に居ることがわかった。

 縫条の方は向こうからまた連絡があるらしいし、当面は久留鞠のことをどうしたものかだな。


 結局、久留鞠が襲ってきた理由は分からない。それでも確実に野津の命を狙っていたのは、実際にその攻撃を受け止めていた矢早銀が証言している。

 今のところマフィアの巻き添え以外では久留鞠による被害は起きていないようだし、通り魔犯として指名手配されていないのがせめてもの救いかもしれない。当の野津には悪いがな。


 この世界の国の法に触れてしまえば、さすがに学園でも庇いきれないかもしれない。

 そう言う意味でも久留鞠のことは問題が大きくなる前に解決する必要がある。


 しかし捕まえるとなると轟や保倉のスキルを使うのが手っ取り早いか。保倉の『霧夢』は相手を眠らせることができるし、少し荒っぽくなるが轟の『帯電』で感電させれば動きを封じることもできるだろう。

 もちろん俺もできる限りはサポートするが、俺が使えるのは水弾や火弾を飛ばす攻撃用の魔術なので相手に大けがを負わせる可能性がある。

 今後も何が起こるかわからないことだし、生徒を捜索するためにも助けるためにも、もう少し状況に応じて使えるように魔術を習得しておいた方が良いな。

 

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