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086 縫条正義の同郷者

 奴隷商人に頼まれたお仕事で私たちは王国の西にあるサウールという大きな街を訪れました。

 街は事前情報にあった通りの賑わいを見せていて、市場の方ではなにやら騒ぎまで起きているようでした。

 その騒動の様子を見に行くと、なんとその渦中の人物がセイギ様のお知り合いだというではないですか。


「いや誰って。俺だよ野津爽也。同じ三年で野球部の!」

「そうまくしたてられてもな。同級生も野球部も何人もいるであるからな」


 赤い髪をボウズ頭にした男がセイギ様に詰め寄りますが、セイギ様はとぼける風でも無く返します。

 ノヅと名乗る少年は確かにセイギ様のことを知っているようですが、当のセイギ様はノヅのことは全く覚えていないようです。

 騒動を起こしてこの場に残っているのは三人ですが、皆セイギ様と同じくらいかそれよりも少し幼さを残しているように見えます。


「あれぇ。ご主人様の知り合いって言うから助けたのにぃ。違ったの?」

「この少年のことでは無いということだろう。あと貴様は見ていただけだがな」

「あらあらぁ。トドメを刺そうとしていたのが見えなかったのかしらん? あ、ごめん。傷ついたぁ?」

「ふっ。貴様の言葉をいちいち真に受けていられるか。貴様よりはよほど周りのことは視えているつもりだ。貴様が蔑ろにする他人の感情もな」


 イヴァンさんとクレナさんがいつものようにいがみ合います。

 ここまでの道中でも何度見たかわからないくらいに、二人のこの様子は見慣れた光景ですね。


「吾輩が言ったのはそっちのバットを振り回していた方である」

「矢早銀さん? 知り合いだったの?」

「さあ、知り合いというわけじゃないと思うけど。先輩としては知ってはいるけれど、話したことも無いわよ」


 セイギ様がその場にいた少女を指して言います。

 彼女――ヤサカネは、体中から刃を突き出してくる対手に不思議な形状の棒を振り回して鮮やかに打ち合っていた少女です。クレナさんの気配殺しの攻撃さえも受け止めていたのでかなりの腕前なのです。


「それはそうかもしれぬな。ただ吾輩の方に見覚えがあったというだけであるからな。矢早銀のその才能にな」

「……才能?」

「なんだ、てっきりまた矢早銀さんの伝説を知って――っうぐ」

「工平。舌が要らなくなったのなら早く言いなさい。引き千切ってあげるから」

「……ぅぐ。矢早銀さん、恐ろしい脅しをするなら最初のボディブローはいらないんじゃ――いえ、すいません」


 コウヘイが何か言おうとしたところをヤサカネが肉体言語で黙らせました。

 クレナさんの殺気を受けても堂々としていましたし、やはり侮れない人物のようです。

 それもそうでしょう。セイギ様がその才能を覚えているほどなのですからね。

 セイギ様は他人の才能を見抜くことができるという素晴らしいお力を持っていますが、一転セイギ様の目に留まらないような才能だとその相手を覚えることすらなくなるのですヒト種の場合はという但し書きはつきますが。


「以前見かけたときは卓越した弓引きと棒術の才覚があったからな。超然的とまでは至っていなくとも珍しかったので記憶に残っていたのである」

「棒術って、物は言いようですね」

「工平?」

「ごめんなさい」


 凍りつきそうな視線にコウヘイがすぐに謝罪します。

 コウヘイはどうも迂闊な人物のようですね。


「ふぅ~ん。多少ご主人様の覚えがあったようだけど。少しできる程度なら大したことは無いわねぇ。尻尾も生えてないみたいだし」

「えっ? 尻尾って重要なの?」

「勝手に目踏みして愚鈍な私的感情で悦に浸らないでくれる?」


 クレナさんの肉食獣のような笑みとヤサカネの氷のような視線が交差します。

 コウヘイはよくわからないことに戸惑っているようです。尻尾は重要に決まっているのですよ。


「そうであるな。所詮は吾輩の見立てと言うだけである。しかし、この世界ではその見立ても見直す必要があるようだ。二人とも、特にコウヘイ? のスキルは驚嘆に値するものである」

「スキルって僕はさっき少し使ったかもしれないけど、矢早銀さんはまだどんなスキルかもわからないし使って無かったんじゃ」

「ふむ。自身のスキルに気づけない者もいるのであったな。なに、直接スキルの効果を見る必要はない。吾輩は他人のスキルがどんなものかを見極めることができるのである」


 セイギ様のお力をはじめて聞いた三人が驚きの表情を浮かべます。

 それも当然です。自分のスキルのことを知らず、自分は大したスキルを持っていないと思い込んでいた奴隷も少なくありません。その奴隷たちも今ではセイギ様のおかげで新たな可能性を見出せているのです


「それじゃあ矢早銀さんがどんなスキルを持っているかも解るってことですか?」

「無論その通りであるが。知りたいのであるか?」

「そうね。この世界ではどれだけスキルを使いこなせるかは非常に重要だものね。先輩、お願いできるかしら」

「問題ない。吾輩としても二人がそのスキルを十全に発揮してくれた方が楽しませてもらえるからな」


 ヤサカネの申し出にセイギ様が快く答えます。


「さっきから俺のことは無かったみたいに話が進んでるんだけど。なあ縫条、俺のスキルはどうだ?」

「ふむ。……野球部はパッとしないな」

「名前すら覚える気がない上に、ひどい言われようだ!」


 それから少し場所を移動して、ヤサカネやコウヘイのスキルについてセイギ様とお話しました。とりわけ、セイギ様が言った通りコウヘイのスキルはとんでもないモノでした。

 あとはそう、セイギ様の知り合いを襲ったという人物についての情報共有も行いました。三人も襲われた理由は分からないらしく、セイギ様の護衛である私たちも警戒していかなくてはいけません。


 因みにノヅは終始どこか悲し気に肩を落としたままでした。


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