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085 襲撃者3

 地上に叩きつけられた威力をどう防いだのか、久留鞠に落下のダメージはなさそうに見える。


「――ふっ」


 立ち上がった久留鞠が準備する隙を与えずに大男が前に出る。地を削るような軌道からブレードソードを振り上げるようにして斬りつける。

 しかしこれも久留鞠が体中から突き出した刃で受け止め、さらに衝撃を利用して後方へと飛び退き大男との距離をとる。


「随分と厄介なスキルだな」


 二度に続いて剣戟を防がれた大男が不満げに漏らす。


「ほうら、頑張ってぇ」


 いつの間に現れたのか、先ほどまで久留鞠と大男が居た屋上に一人の女性が腰かけていた。

 大男と同じ深い紺色の衣装に、薄桃色の髪と垂れ下がった大きな耳。手こずっている大男に対して、愉快そうに軽口を飛ばしている。


 大男が不愉快そうに鼻を鳴らして兎耳の女の言葉を聞きながす。

 再びゆっくりとブレードソードを構えなおし――、大男の姿が消えた。

 柔軟な身体と脚のバネが音もなくその巨体を射出し、瞬時に久留鞠に肉薄してブレードソードを振り下ろす。


 それでも久留鞠が体中から刃を突き出す速度に及ばない。

 もはや条件反射のように、互い違いに突き出した刃が的確に大男の斬撃を受け止めていた。

 しかし大男の攻撃はそれで終わらない。受け止められたブレードソードをそのまま力づくで押し込んでいく。

 力勝負では久留鞠に勝ち目はなく、受け止められてこそいるが久留鞠の身体は完全にその場に縫い留められてしまっている。


 一瞬、甘い香りが流れた。

 音もなく――。

 気配もなく――。

 屋上から飛び降りた兎耳の女が久留鞠の背後に迫り、その首へと不可避の一撃を繰り出した。


 ――ガキン。


「なぁにぃ? アナタぁ」

「あなたこそ、いきなり何の用かしら」


 兎耳の女による致命の一撃をすんでのところで差し込まれたバットが受け止めた。

 湾曲した短剣の鋭い切っ先は久留鞠の首に刺さる寸前で止まっている。全身から刃が出せると言っても、あくまで久留鞠の意思によって発動しているため意識外からの攻撃は防げぐことができなかったのだ。


「もしかしなくても私の邪魔をする気かしらぁ?」

「いきなり飛び出してきて勝手なことしないでくれるかしら」


 攻撃を妨害された兎耳の女が殺気を隠さずに凄むが、矢早銀もそれくらいでは動じない。

 獰猛な笑みと凍えるような視線が交差する。


「すまないが、喧嘩ならよそでやってくれるか」


 本来の敵を前に言い争いをする二人を大男が諌める。

 すぐに足元に違和感を感じた三人が同時に飛び避いた。 


「「「――っ!?」」」


 直後、久留鞠の足元が隆起し、久留鞠を乗せたまま一気に土の塔が形成された。

 そのまま見上げる程に高く聳え立った土くれの塔の上から、久留鞠が別の建物の屋上へと飛び移りそのまま姿を消してしまった。


「……えっと。これは逃げったってことなのかな?」

「多勢に無勢。さすがに目的を果たせぬと判断したのだろう。誰が判断したのかは分からないがな」


 大男が周囲を警戒しながら答える。

 久留鞠のスキルは身体中から刃を生成するというものだ。久留鞠を逃がすために出現した土くれの塔は別の誰かのスキルか魔術だろう。

 土くれの塔はすでに魔力が抜けて徐々に崩壊し始めている。


「おーい。お前ら大丈夫だったか?」


 土くれの塔を囲む見物人をかき分けて、どこからか屋上から降りてきていた野津が姿を見せた。


「野津先輩こそ。大丈夫でしたか?」

「いやかなりヒヤッとしたぜ。あのまま蹴斗にぶった切られると思ったしな。どこのだれか知らねえが礼を言うぜ」

「それでお二人は……、さっきの、久留鞠君の知り合いなんですか?」


 いきなり現れて助けてくれた大男に訊ねる。

 兎耳の女と矢早銀はまだ一触即発の状態だ。


「いや、あの男と会ったのは初めてだがな。俺たちの主が知り合いが襲われているようだと言うのでな、こうして助太刀に入ったわけだ」

「へぇ、初対面で事情も良く知らないのにいきなり殺そうとしたってことね」

「なぁに。それが最善手なら当然でしょ。それに――」

「その辺にしておけ。事情も知らずに勝手に手を出したのは事実だ。ただこちらにもこちらの考えがあってのことだ。一応は助けたということでそちらも勘弁してくれ」


 いまだに殺気を放ちあう兎耳の女と矢早銀に、大男が仲裁を入れる。

 

「お二人の主って……?」


 三嶋がきょろきょろと周囲を見渡すがそれっぽい人物は見当たらない。

 この世界で知り合いというのも数少ないので、学園の生徒かもしれない。それにしてもこの大男と兎耳の女に『主』と称される人物というのは三嶋達には思い当たりが無い。


「少し離れたところからとびだしたからな。じきに来るだろう」

「主人を置いてきて大丈夫なんですか?」

「他にも護衛はいるからな」

「おいおいそんな何人も護衛を連れてるって一体どこのお偉いさんだよ」


 大男の戦闘力はさっきの一件だけでも相当なものだとわかる。それに加えて他にも護衛がいるということはそれなりの権力か財力を持っている証だろう。

 少なくとも三嶋の知り合いにはそんな人物はいない。


「ふむ。どうやら無事だったようであるな」


 しばらくして、そんなのんびりとした言葉が掛けられる。

 声に振り返れば黒髪黒目の男がこちらに近づいてくるところだ。

 背格好は金回りの良さそうな豪奢さも荒事に長けてそうな雰囲気も無い、複数の護衛を連れているようには思えない普通の少年だ。

 身長は野津と同じくらいで平均よりも少し高くやや痩身だ。三嶋達が髪色や目の色が変化しているのに対して、その人物は見た目の上からは元の世界のままであった。


「お前、縫条じゃねえか。なんだよ、主って縫条のことだったのかよ」


 縫条と同学年である野津が驚きの声を上げる。

 しかし対する縫条はおとがいに手を当てて小首をかしげる。


「ふむ。……すまないが、貴公は誰であるか?」


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