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084 襲撃者2

 市場の通りの真ん中で、その人物は不気味なほどに静かにたたずむ。

 通行人が横切ろうと肩にぶつかろうと気にした様子はなく、その視線はブレることなく3人を――野津を捉らえ続ける。


「――蹴斗!?」

「だから目立たないで欲しかったのだけど……。工平、バット」


 久しぶりのクラスメイトとの邂逅でも、油断なく端的に指示を飛ばす。

 相手が見知った顔であることに驚いていた三嶋だったが、その声に条件反射のようにバットを作成して手渡した。いつものように手ごろな木材が無かったので『生産者』によって魔力のみで作り出した特注品だ。


「久留鞠君……?」

「様子がおかしいわね」


 重厚な装備の冒険者らしきものが横切る。その陰に乗じて久留鞠が地を蹴った。

 弾丸のように跳びだした久留鞠が瞬く間に距離をつめて、野津に対して跳び蹴りを放つ。

 その脚には鈍く光を反射する鋭利な刃が数枚、ふくらはぎのあたりから足先へと沿うように突き出している。

 

 矢早銀が前に出る。

 上段から力一杯バットを振り下ろし、刃着きの脚を叩き落とす。

 勢いを削がれ着地した久留鞠にさらに横なぎに振るって追撃するが、久留鞠は後方へ飛び退いて避ける。


 ブォンと鼓膜が叩かれるような恐ろしい音が鳴るが久留鞠の表情に変化は無い。

 ただ光彩を纏わない視線が、標的だった野津からその障害となる矢早銀へと移る。


 矢早銀は細く長く息を吐いて精神を集中させる。弓道部の修練で身についた習慣の一つだ。

 対する久留鞠が息合もなく蹴りを繰り出す。膝下、膝元へと連続して蹴りつける。


 ――カン、――カン。


 硬質な音を鳴らしながら、矢早銀がバットを巧みに構えて危なげなく捌く。

 下段蹴りをおとりに逆の脚で本命の上段蹴りが襲い掛かるが、バットを上段右側へと素早く構えなおして受け止める。


 ――ガキン!


 さらに大きな金属音が鳴り響く。

 木製のバットくらいは容易く斬り裂いてしまいそうな刃と蹴りの鋭さだが、三嶋の魔力で作られているバットは傷一つついていない。

 それでも矢早銀が使うのはあくまで打撃用のバットだ。刃物と下手につばぜり合いをすれば指を落とされかねない。

 それを十分心得ている矢早銀は、次々繰り出される攻撃を受け流すか瞬時に弾くことで対処している。


 攻撃を弾かれ続けた久留鞠が体をねじって地面に手を着く。そのまま逆さ立ちの形を取るとカポエラーのように両脚を振り回す。

 刃のついた両脚がミキサーのように襲い掛かる。


 遠心力が乗った脚撃を矢早銀がバットで受け止めるが、連続で繰り出される重量が矢早銀の身体を徐々に後ろへと押していく。

 矢早銀の体勢が崩れたのを見て、久留鞠が地に足をつけて強く蹴りつけた。


「しまっ――」

「おいおいおい、結局俺狙いかよ!!」


 久留鞠が矢早銀の隙を突いてその横を跳び抜ける。

 矢早銀が慌てて背後からバットを投げつけるが、スライディングの要領で体勢を低くして躱す。

 その勢いのまま滑り込みながら野津を刈り取ろうと迫った。


「何だってんだよ」


 悪態をつきながらも野津が『超脚力』でその場から大きくジャンプし、近くにある建物の屋上へと逃げる。

 久留鞠もすぐさまその建物へと走り、壁へと脚を掛け――。


「嘘だろ?!」


 久留鞠の足裏から突き出した刃がスパイクのように壁面を捉え、そのまま壁を走り獲物へと迫る。

 矢早銀が三嶋に用意させた弓をつがえるが、それよりも早く久留鞠が屋上に到達した。


 野津が再び『超脚力』でその場から別の建物へと跳んで逃げようとするが、二度も同じ手は通じない。

 久留鞠が野津に向けて蹴りを放つ。

 跳び上がった野津との距離は開いているが、蹴り出した脚から長大な刃が突き出してその身を切り裂かんと襲い――。


 すんでのところで刃の機動が変わった。

 屋上で蹴りを放っていたはずの久留鞠の身体が道路側へと投げ出されている。

 さっきまで久留鞠がいた屋上には黒ずくめの大男が立っていた。男はブレードソードを手に屋上から落ちようとしている久留鞠へと視線を向けている。


 落下を余儀なくされた久留鞠は、腕から出した刃を壁に突き立てて落下速度を低下させる。

 しかしそこを屋上にいた大男が跳び下りて追撃を加える。落下と共に振り下ろされたブレードソードが久留鞠を捉えるが、その身が切り裂かれることは無く鈍い金属音が響く。

 人ひとりくらいは容易く切断してしまいそうな一撃だったが、久留鞠の胸部から腹部へかけて突き出した無数の刃がそれを受け止める。

 大男は受け止められた剣をそのまま力づくに振り切る。

 打ち弾かれた久留鞠が地面へと叩きつけられ、大男も少し離れた場所に着地した。


「――誰?」

「さあね。先輩を守ったようにも見えたけど、油断はしないでね工平」


 大男は夜闇に溶けるような紺色の衣装に身を纏っている。どことなく忍者を連想させるが、頭巾は無く代わりにその両目が布で覆われている。そして頭には立派な猫耳が鎮座している。


「思い切り落ちたけど久留鞠君は大丈夫かな?」

「どうやら、無事みたいよ」


 ゆらりと久留鞠が立ち上がる。

 いきなり攻撃を受けてなお久留鞠に表情は見られない。

 そして、大男も平然と起き上がる久留鞠に驚いた様子はなく、静かにブレードソードを構えなおした。

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