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幕間023 縫条正義と奴隷商の依頼

 朝の勉強会を終えた私は夢心地のひとときを過ごしています。


「……旦那。それは、何をしてるんだ?」

「うむ。ユキが寝ていたので、これ幸いにと狼耳のもふもふを堪能しているのである」


 呆れた視線を向ける奴隷商人に、セイギ様は毅然と答えます。

 私は椅子に腰かけるセイギ様の横で一休みしているのです。もちろん本当に寝ているわけではありませんけど。


「それを堂々と答える旦那も大概だが……。そいつ、起きてんじゃねえのか?」

「むむ。そうであったか、それは失敬」


 奴隷商人に指摘されて、私の耳をフニフニと触っていた手をあっさりとひっこめてしまいます。

 セイギ様は時折私たち奴隷の耳や尻尾を触りたそうにしています。ですが奴隷に何を遠慮しているのか、勝手に触ったり命令することは無いのです。


「悪かったって。そんな睨むなよ」


 至福を邪魔されて、私は思わず奴隷商人にむくれ面を向けてしまっていたようです。


「ちとセイギの旦那に頼みたいことがあってな」


 奴隷商人がセイギ様の向かい側に座り本題を切り出します。


「しばらく俺は王都の対応ですこし忙しくてな。代わりにセイギの旦那に奴隷の輸送に付き添ってほしいんだ」

「ふむ。輸送であるか」


 基本的に奴隷はお客さんが商店で直接選んで購入していきます。

 各地で仕入れた奴隷を商店に輸送してくることはあっても、逆に商店から売り先へ輸送することはほとんどありません。


「今回のは特殊な案件でな。奴隷の頭数をそろえて貸し出して欲しいって頼まれてんだ」

「ふむ、購入ではなく一時的な賃貸と言うことであるか。確かにイレギュラーではあるがそれなら他の店の者に行かせれば良いのではないか?」

「そうれはそうなんだが……。頼みたいのは輸送だけじゃねえんだ。セイギの旦那に向かってほしい場所はなサウールっていう街でな。そこでとある問題が発生したらしいんだよ」


 奴隷商人がタプタプの顎に蓄えられた髭を撫でながら説明します。


「サウールの街の近くにトルクの森と呼ばれてる大森林が広がってるんだがな。先日その森林の一区画が吹っ飛んだらしい」

「吹っ飛んだ?」

「ああ、それで現地は大騒ぎだとよ。誰かやったかは判明してねえらしいが、なぜか冒険者組合はその辺の調査をするつもりはないらしい。まあ十中八九、銀級以上の冒険者が関わってるんだろうって噂だ。銀級以上は化け物ぞろいだからな」


 冒険者のランクは下から鉄級、銅級、銀級、金級の四つです。

 殆どの冒険者は鉄級で、銅級であれば優秀な冒険者として将来も安泰です。銅級一人で中型の魔獣を相手にできるくらいの実力だそうです。

 鉄級になると大型の魔獣を一人で倒せるレベルという信じられない戦闘力を持っているそうです。そして世界にも数える程しかいない金級にもなると、国同士の戦争の行方すら左右するレベルらしいです。

 因みにこの知識は日頃の勉強会の成果です。えっへん。


「まあ原因はさておき、誰かが森を吹き飛ばしたせいでその辺りには大量の木々がなぎ倒されてるらしい。大量の木材もそのまま森に放置してるとダメになっちまうからな、できるだけ早く回収して加工してしまいたいんだそうだ」

「それで労働力が必要と言うことであるか」

「そういうこった。冒険者にも臨時依頼は出ているらしいが、それでも人手が足りねえってことで労働奴隷を集めてるんだとよ。期間限定の仕事だから大量の奴隷を購入するわけにもいかねえから、俺たち奴隷商にも話が回ってきたわけだ」


 大量の奴隷を購入したとしても、森での仕事が終わったらその奴隷たちを持て余すことになります。

 それでもともと多くの奴隷を所有する人たち――、奴隷商に直接作業の手伝いを依頼したということらしいです。


「つまり現地についた後も奴隷たちに指示を出して仕事をさせる必要があるわけだ。それでセイギの旦那に奴隷たちの管理も手伝ってもらいたくてな。セイギの旦那か買った奴隷以外のうちで取り扱ってる奴隷もセイギの旦那には一目置いてるっぽいから、ちゃんと指示も聞くだろうしな」


 ここの奴隷商の奴隷たちはセイギ様の『スキルを見抜く能力』によって、より適切な価値を見出されてその扱いも良くなりました。

 さらにはセイギ様の不思議な知識によって生活環境もかなり改善していますし、セイギ様に購入されたいと考える奴隷も少なくないのです。


「ついでに現地にいる奴隷に良さそうなのがいたら印をつけといてくれないか? 他の奴隷商も大勢奴隷を送り込んでいるだろうからな、良いのがいたら後で交渉して買い取りたい」

「ふむ、内容は理解したである。吾輩もこの街での地盤もできたことであるし、外の様子も色々見て回りたかったところである。奴隷商殿の頼み、快く引き受けよう」


 セイギ様と奴隷商人がいつもの悪い笑顔で握手を交わします。

 いえ、セイギ様の笑顔が悪いなんてことはありません。素敵な笑顔です。


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