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001 プロローグ

 現在、日本で最も有名な高校はと問われれば、ほとんどの人がこう答えるだろう。


 ―――私立境天寺学園。


 別段特別な進学校と言うわけでは無く、偏差値も一般的な公立高校と変わらない。

 オリンピック選手を輩出するような熱血漢あふれる運動部もなければ、若き起業家や研究者が活躍しやすい環境が整っているわけでもない。

 それは多くの人が経験したような、高校と言う言葉から容易に連想されるような、まさに一般的な私立高校と呼べるような高校であった。


 場所は国内最大級の湖のほど近く。

 広大な土地は綺麗に区画整理されてまだ真新しさの残る家々が立ち並ぶ。住宅街から伸びる大通りの先にはいくつかの有名企業の工場が点在し、両者を分断するように三大都市を結ぶ高速道路が東西へと奔る。


 そんな土地の中心にひときわ異彩を放つ区画が存在する。

 面積を数えるのに便利な球場の半分くらいと言えば、敷地面積的には少し広いというのが伝わるだろうか。綺麗な正方形をかたどる敷地は、それこそ綺麗なまでに、文字通りに、何も存在していなかった。

 4階建て2棟に分かれていた校舎も、サッカーゴールと野球のベースラインが混在する校庭も、様々な種目のカラフルなテープが床を彩る大きな体育館も、高校では珍しい独立した図書室兼事務棟も、防犯カメラが見守る少し高さのある校門も、七不思議ご用達の銅像も、なにひとつ跡形もない。


 より正確に言うならば、そこが何かの施設だった形跡だけは残っている。

 その正方形の土地は、立方体の土地は、地上部はもちろん地下数メートルまでピースの足りないパズルのようにきれいにくり抜かれている。

 地下部分の断面はバターナイフで切り取ったかのように滑らかで、外部と繋がっていただろうライフラインの断面がそこに何か施設があったのだと教えてくれる。


 その異様な区画は余すところなく警告色のフェンスで囲まれている。雨風の影響で多少断面が崩れている箇所があるものの、その景色はここ数年間変わらずに残されている。

 住宅地や国の動脈とも言える大きな交通機関にも困らない立地だが、しかし新たな建物が立つことはおろかその真四角の穴が埋められる予定もない。

 それはその土地が私有地でありその所有者が行方不明であるためなのか、それとも未だ原因も推測すら立たない事件に対する配慮なのかはわからない。


 その区域はある日突如として姿を消した。

 校舎も、校庭も、校門も、それらを支える大地すらも――。そして、当時その場にいた、学習する者も、教鞭を執る者も、事務をこなす者も含めてすべてが姿を消した。


 事件からはすでに3年の月日が経っているが、その場所には未だに事件の関係者や好奇心を抑えきれない見物人が訪れている。

 ある者は消えた人物を想って花を供えに、ある者は様々な撮影機器とジャーナリズム精神を持ってその現場の様子を写し取ろうとする。


 空虚にも思えるほどのただの空間。

 時が建てば地図上からもその建物の名は消え去るだろう。


 そこが何だったかを示すものはたったひとつ。異質な空間を取り囲む警告色のフェンスの、いつからかそのひとつに張り付けられていた一枚の看板。

 上等な木の板に、丁寧な文字で、ある一文が刻み込まれていた。



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        関係者各位へ


  私立境天寺学園は異世界に移転いたしました


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