表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】オフセット印刷から始まる異世界転移  作者: BIRD
第1章:禁書閲覧室の薄い本
8/61

第6話:死者蘇生の方法

挿絵(By みてみん)


 薄い本を今日も読んだ。

 登場した途端に死んじゃう新キャラに、こっちの世界でよく知ってる人を連想した。

 今やすっかりアサケ学園名物と化している、毎日死にながら救命医療を教える先生を。


「死んだと思った者に腕を掴まれたら、ゾンビかと思うよな」


 薄い本を閉じて、俺はホラーな光景を想像した。


 以前、モチと一緒に蘇生実習をした時を思い出す。

 モチが魔法を間違えて、ゾンビになっちゃった笹谷先生。

 顔色がいつも以上に土気色で、キシャーッとか言ってたなぁ。

 ビビリまくったモチが、火魔法で火葬しようとしたっけ。

 でも火魔法は効かなくて、爆裂魔法で爆散させて倒してた。

 成功率の低い下位蘇生魔法を100回くらい使って、ようやく蘇生に成功したモチは疲れ果ててたよ。

 そのおかげで赤い卵が孵化して、不死鳥フラムが復活したんだ。

 あの後、俺は自習で蘇生魔法を覚えたけど、完全蘇生薬(エリクサー)の方が簡単だし早いから、成功率の低い魔法は全然使ってない。


「オバケとかゾンビとか苦手だから、俺なら逃げちゃうかも」

「と言いながら、霊が淹れたお茶を飲んでるよね」


 苦笑して言う俺に、神霊タマがツッコミを入れる。

 タマは立体映像みたいな姿で、空中に浮いていた。


 俺には日本にいた頃から霊気同調(チューニング)っていう霊感の一種があって、この世のものでない存在が視える。

 後に聞いたらその能力は魂に組み込まれているそうで、前世でも持っていたらしい。

 前世も俺みたいにタマが視えて、禁書閲覧室に入っていたという。


「タマは死者の霊とは違って、背筋がゾワゾワしないし、可愛いから平気」

「嬉しい事を言うね。はい、今日のお茶とオヤツ」


 俺が手渡した薄い本を棚に戻すと、タマは柑橘系の香りがするお茶とチョコレートケーキを出してくれた。

 タマは死んだ者がこの世に未練を残す霊ではなく、神様が物質的な器を与えていない神霊という存在だ。


「霊といえば、君はアズとルルの霊がいる木の隣に住んでるよね」

「あの2人は他人じゃないから平気」


 オバケやゾンビが苦手といっても、全てではない。

 アズは俺の前世だし、ルルはその妻だ。


 ルルの正体は先代の魔王で、彼女は魔王の力が戻る事を恐れて転生をやめている。

 転生ではなく蘇生なら魔王の心臓は出現しないけど、ルルは老衰死なので蘇生出来なかったとアズは言っていた。


 薄い本の世界では、死者蘇生の方法は無いらしい。

 こちらの世界なら、完全復活の聖魔法が使える者がいるけどね。

 召喚獣の不死鳥も蘇生が出来る。

 他には、世界樹の花蜜にも蘇生効果があるらしい。

 但し、いずれも心肺停止から24時間以内という制限つきだ。

 24時間以内でも、老衰死や神様に魂を抜き取られた事による死亡には効かない。


 そういえば、エアが新しい蘇生薬の研究をしてたな。

 素材の納品も兼ねて研究の進展を聞きに行ってみよう。

 俺はティータイムを終えると、エアがいるアマギ王国へ向かった。


「アズ? あ、間違えた。イオ、いらっしゃい」

「何なら『お兄ちゃん』でもいいんだよ?」


 エアの言い間違えはもう気にしない。

 前世関係者あるあるだからね。

 エアは日本転生時は俺の年子の妹だった。

 今は前世の心と記憶を取り戻し、アズの幼馴染の人格が表層に出ている。


「さすがにその姿で『お兄ちゃん』は無いわ」

「中身は20歳だけどね」


 ツッコミを入れるエアに、俺は実年齢を主張する。

 俺の身体は今は6歳だけど、変換される前は20歳の大人だった。

 エアも今の身体は6歳だけど、仕事に支障があるので20代くらいの成人女性の姿に変身していた。


「はいこれ今日の納品。新しい蘇生薬の研究はどんな感じ?」

「あ! そうそう聞いて、試作品が出来たの!」


 素材を渡しつつ聞いたら、なんと新バージョンの蘇生薬が出来たという。

 エアが研究を開始したのは、俺が夜間訓練を始めたのと同時期だ。

 蘇生効果を持つ世界樹の花蜜を素材に使えるとはいえ、1ヶ月で試薬まで進むとか、俺の元妹は天才か?


「はいこれ。どこかで死んでる人がいたら飲ませてね」

「……って、まさかこれも口移しか?」

「うん。死体が自分で飲めるわけないでしょ」

「……それは、使う相手によってはハードル高くないか?」


 エアが差し出すのは、シロップ状の薬が入った小瓶。

 この世界ではそのタイプの薬は体内に入れば効果を発揮するので、意識が無い者には口移しで飲ませる仕様だ。

 学校で習う救命方法の1つとして飲ませ方は知ってるけど、お手軽には使えない。

 気絶してる人間以上に、死体の唇に触れるのは難易度高すぎだ。


「この新薬は、それを考慮して作ってあるの。飲ませる側も飲まされた側も嫌悪感が無く、気持ち良く感じるようにしたから」

「それもどうかと思うぞ」


 天才とナントカは紙一重っていうけど、エアの発想は正にそれかも。

 俺は半目でツッコミを入れた。


「とりあえず試してみてね。人命救助なら平気でしょ?」

「それは【アズ】で、俺は違……」

「大丈夫、魂は同じなんだから」


 言いかけたところでエアに笑顔で圧をかけられ、試薬を押し付けられる。

 渋々受け取った俺は、それを異空間倉庫(ストレージ)に収納した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ