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第52話:再生力

聖なる力を付与した剣で核を貫かれたトゥッティの身体は、しばらく痙攣した後に炭のように黒くなり、ボロボロと崩れて消え去った。


「偽物かな?」

「将軍クラスは爆裂魔法でないと死なない筈だから、分身か何かだな」


俺の問いに、エカが答えた。

狡猾な蛇将軍が、こんなにあっさり死ぬわけがない。

ジャスさんが剣聖だとしても、爆裂魔法も無しに死亡するような敵ではないから。

ふと嫌な予感がして、俺は片手でエカの手を握りつつ、空いている方の手でジャスさんの手を掴んだ。


予感的中!


急に足元が崩れて、3人揃って地下へ落下し始める。


「2人とも、手をしっかり握ってて!」


赤毛コンビに左右の手を握らせつつ、俺はエルティシアで得たものを解放した。


風の妖精(エアリウセ)、翼を貸して!』


念話で呼びかけると、3人の落下が止まり、フワリと空中で停止した。

何が起きたか分からず驚くエカとジャスさんには見えないけど、俺たちの周囲には小妖精たちが舞っている。


風の妖精たち。


大気が存在する場所であれば、どこにでも現れて力を貸してくれる妖精たちだ。

たとえ異世界であっても、空気があるなら呼び出せる。


「エカ、風魔法を使ったのか?」

「いや、俺は何もしてない」

「2人とも気を付けて、下に魔王がいるよ」


困惑している様子の赤毛父子に、地下から感じる気配を伝えた。

エカを隠していた場所やトゥッティが来る頻度から、魔王も近くにいる予感はしていたけど。

まさか地下にシェルター作って潜んでいるとはね。

空中に浮かびつつ見下ろした地下には、巨大な魔法陣を囲むように配置された漆黒の岩がある。


「あれは……魔王の心臓?!」

「分散せずに、まとめて置いている?!」


エカとジャスさんには、それが何か分かるらしい。

魔王の心臓ってのは予備が6つあって、本体とは離して1つずつ違う場所に隠すものだったような。


「観客が来たか」

「……やはり生きてたな、変態蛇野郎」


魔法陣の中央に立ち、こちらを見上げるのは白い長髪に赤い瞳の男。

エカに変態呼ばわりされるトゥッティの傍らには、セレネによく似た黒髪の少女が立っていた。


「ルイ! 一緒に帰ろう!」

「そんな変態と一緒にいたらダメだ!」

「……あれは何?」


呼びかけるエカとジャスさんを見上げて、黒髪の少女は無表情なまま問いかける。

やはり、詩川琉生としての記憶は無いのか。


「陛下、あれはゴミでございます」

「そう。じゃあ燃やす」


白髪の男に囁かれた黒髪の少女は、無表情のままこちらに黒い炎を放ってくる。

俺と手を繋いでいるから、エカにもジャスさんにも当たらないけどね。


「ゴミ、炎が効かない」

「あれは燃えないゴミでございます」


……言いたい放題だな、トゥッティ。


「そう。じゃあどうすればいい?」

「大陸を破壊すれば、まとめて埋められますよ」

「わかった」


相変わらず表情を変えないまま、少女が漆黒の岩の1つに片手を向ける。

その岩から、漆黒の霧が滲み出てきた。

大陸を破壊?

あの配列は、6つの心臓を大陸破壊兵器にするためか?


黒い霧が岩を覆い、床にも広がりかけた時、岩は粉々に砕けて消えた。

岩が砕けたのは、少女の術によるものではない。

エカが俺と手を繋いで空中に浮かびながら、空いている方の手を岩の方へ向けている。

爆裂魔法が、怪しい霧を発生する岩を破壊していた。


「道具、こわれた」

「すぐ直りますよ」


6つの予備心臓を「道具」と言う少女は人形のように無表情のまま。

トゥッティも驚く様子は無かった。

その言葉通り、砕けた岩があった場所に小さな魔法陣が浮き出て、そこから新たな黒い岩がはえてくる。

あれって、まさか形状記憶魔法陣か?


「再生した……?」

「猫人どもに使えて、魔族が使えないとでも思ったか?」


エカの呟きに、トゥッティがニヤッと笑う。

魔工学部の技術は、どこまで盗まれているんだろう?


「なら、魔法陣ごと全部破壊するさ!」


エカが魔法陣に向ける片手の周囲に、透明な泡が渦を巻く。

それがフッと消えた直後、魔法陣と6つの心臓はガラスのように砕けて消えた。


しかし……


復活(リナシタ)


……少女がボソッと呟くと、魔法陣と6つの心臓が瞬時に復元した。


「復元魔法……?!」

「再生方法が魔道具だけと思ったか?」


ジャスさんとトゥッティの言葉から、それが魔法によるものと分かる。

厄介な再生っぷりが、まるでゲームのラスボスのようだ。


『父さん、どうすればいい?』

『6つの心臓と魔法陣、そして魔王を同時に爆裂魔法の最終奥義で消し去れば、大陸破壊の魔道兵器は止まる』

『……でも、それは……』

『ルイの転生者も、一緒に殺すことになる』


攻めあぐねたエカは、念話でジャスさんに問いかける。

ジャスさんの答えは、俺たちが目指す結末からはずれるものだった。


爆裂魔法の最終奥義【存在の完全破壊(デストリュクシオン)】を使えば、魔王は消滅する。

消滅した後は魂が長い休眠期に入り、千年以上経たないと転生してこない。

長命な世界樹の民でも、生きている間に転生者に巡り合うことはないだろう。

それは、6つの心臓だけを破壊して、魔王は生かして連れ帰るつもりの俺たちには、選びたくない選択肢だった。

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