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【完結】オフセット印刷から始まる異世界転移  作者: BIRD
第1章:禁書閲覧室の薄い本
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第2話:転生と転移

挿絵(By みてみん)


 薄い本の物語の主人公は、15歳の男子高校生。

 冒頭、プロローグにあたる部分は、主人公(と思われる人物)が見る夢の話から始まる。

 ある冬の日、主人公は友人たちと一緒に「真夜中に発光する菩提樹」を見るために、閉館後の図書館敷地内に忍び込む。

 真夜中の菩提樹は確かに発光し、好奇心旺盛な主人公だけが近くまで見に行ったら、木の中に吸い込まれてしまった。

 主人公は、俺と同じで前世が異世界人で、日本に転生後、前世で暮らした異世界へ転移させられる。

 転移先の異世界には前世の知り合いがいるという辺りに、なんだか親近感があるよ。

 違うのは、薄い本の主人公には前世の記憶や心が残ってるっぽいところかな。

 俺は薄い本の序盤を読んだところで、読書タイムを終了した。


 本の世界では魂に記憶が刻まれるようだけど、異世界ナーゴでは魂に前世の記憶は残らない。

 特例として、神の力で魂から【心と記憶】を引きはがして何かに保存することはできる。

 俺の前世アズールとその妻ルルは、転生して愛する者の記憶を失わないように、心と記憶を別のものに保存した。

 先に亡くなったルルは1本の樹木に、後から逝ったアズールは妻が宿る樹があるアサギリ島に。

 今の2人は、守護霊のように存在し続けている。


 

「今日はここまでにしておこうかな」


 俺はタマに本を返した。


 他に用事が無ければ一気に読むところだけど、兼業学生の俺にそんな時間は無い。

 朝から夕方までは学園で授業を受けて、放課後に禁書閲覧室で息抜き読書とティータイムを楽しんだ後は、剣術修行とギルドクエストをこなす日々。

 過密というほどではないけれど、それなりに忙しかった。


「明日また読みに来るよ」

「うん、またね」

 黒猫神霊タマに手を振り、俺は禁書閲覧室を出た。

 これから神様の空間へ行って剣術修行だ。

 俺は武神アチャラ様から、前世と同じ訓練を受けさせてもらっている。



 魔族・蛇将軍トゥッティ討伐という神命を与えられ、日本に転生した世界樹の民たち。

 双子の勇者とサポート役の3人の女性は、戦う前にトゥッティもろとも元の世界ナーゴに転移させられた。

 ナーゴで戦うことになり、トゥッティは殺さず生け捕りにして、現在は詩川先生が監禁調教(?!)している。

 それで一応の解決ということになり、転生者たちは現世の居住地である日本へ帰るか、前世の居住地であるナーゴに残るか、神様は選ばせてくれた。


 転生者5人のうち、世界樹の民として異世界ナーゴに残ったのは4人。

 その4人の中で、俺だけが前世の記憶と心を得られなかった。

 俺の前世の霊は、転生をやめた妻の霊の傍にいる事を望んでいる。

 我が子に先立たれた両親は、息子の復活を望んでいるけれど、当人は最愛の妻に寄り添い続けたいらしい。

 まあ、双子の兄は復活したから、それで勘弁してもらおう。


 他の3人のうち1人は、エカの愛称で呼ばれる勇者エカルラート。

 アズールの双子の兄で、世界で唯一の爆裂魔法使い。

 彼は妻ソナが持つ指輪に前世の記憶と心を残しており、それを取り込んで前世の意識と共に魔法技術を継承した。

 俺の仕事仲間で親友でもあったモチは深層意識に沈み、前世の人格エカルラートが表層意識となり、今ではアサケ王国のS級冒険者だ。


 カジュ改めローズは、エカとアズの幼馴染。

 歌に癒しの力を持つ愛歌鳥(ルベライト)の主でもある。

 彼女はアスカ王国の王都にある時計台に心と記憶を残していた。

 前世の歌唱技術を受け継ぎ、現在はアスカ王国の歌姫兼聖女の地位に戻っている。


 リユ改めエアも、エカとアズの幼馴染。

 歌に心を癒す力を持つ聖歌鳥(ビオラン)の主でもある。

 彼女はアマギ王国の自宅に心と記憶を残していた。

 リユは現世では俺の妹なんだけど、前世の心が表層化して、現世の心は深層意識に沈んでいる。

 現在はアマギ王国の王都で経営していた薬局と健康食品の店に戻って、商売を再開した。


 俺の前世は元勇者アズール。

 エカの双子の弟で、世界で唯一の完全回避スキルを持つ者。

 剣士として優れた技術を持ち、ドラゴンでもソロ狩りしてしまう特S級冒険者だったそうだけど、今の俺には前世の記憶が無いからその剣技は無い。

 俺が前世から引き継いだ能力(ステータス)は、【完全回避】のユニークスキルだけ。

 転移間もない頃は全然火力が無くて、当たらないのをいいことに魔物を集めて味方に攻撃してもらうという情けない狩りをしていたくらいだ。

 現在は禁書から得た4つの身体強化魔法と、何故か気に入られたダンジョンボスから譲渡された物理範囲攻撃スキルがあり、自分でも魔物を倒せるようになっている。


 アズールは記憶と心を与えなかったけど、持ち物を全部くれた。

 魔導具や剣、無人島の一軒家、結構な額の所持金がある。


 俺は自分でも稼ごうと思って、ギルドに登録申請をしに行ったらアズールの転生者だと即バレてしまい、伝説級の剣技を蘇らせてくれとギルドマスターに頼まれてしまった。

 それで過去にアズールがしたように、時間の流れが異なる神の空間で夜間訓練を続けている。


 前世の存在が大き過ぎると、転生者は苦労するね。

 薄い本を読んで、俺はそんな事を思っていた。

 本の主人公は、前世と容姿が違い過ぎて別の苦労もあるみたいだけど。

 俺の場合は前世で勇者として活躍していた頃の年齢と容姿に戻ってしまったから、それはそれで前世との違いが目について苦労する事もある。

 前世とは違う人間なんだって事、認めてくれないかな?


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