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【完結】オフセット印刷から始まる異世界転移  作者: BIRD
第2章:その後の世界
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第29話:金髪ツインテ美少女

挿絵(By みてみん)


 エルティシアでの最初の夜、神殿の食堂で翔と一緒に夕食後のお茶を飲んでいたら、新入りに興味津々の若い神官たちが挨拶に来た。

 薄い本の主人公がラーナ神殿に来た初日とは、真逆の反応だ。

 俺の向かいに黒髪黒目の翔がいるけど、神官たちは丁寧に挨拶したり敬語を使ったりするものの、緊張する様子は無い。

 物語の千年後の世界、神殿の人々は黒髪黒目の大聖者に慣れ親しんでいた。


「無人島で独り暮らしですか?」

「両親を亡くされるとは、お可哀想に」


 新入り聖者は下位の神官よりも高い地位だそうで、若い神官たちは6歳児相手でも丁寧な言葉で話しかけてくる。

 異世界転移者だと知られると騒がれそうなので、俺は親を亡くして無人島で逞しく生活していた子供で、世界情勢などは全く知らないということにした。

 無人島で無意識に聖なる力を使っていたところを、翔が感知して保護した。というのが、ここに来た経緯にしてある。


「もしも分からないことや困ったことがあれば、いつでも私たちを頼って下さいね」

「ありがとう。冒険者登録をしたので神殿の外へ稼ぎに出ることが多いけど、ここでも働くのでよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


 神官たちは同情したのか、新入り対応が随分と優しい。

 俺はランクは言わず冒険者登録をしたことだけ話し、兼業聖者になると伝えた。

 職場の人間関係は良好そうだ。


 とか思っていたら……


「あんたみたいなチビが冒険者になったからって、まともに稼げるわけないでしょ」


 ……なんか、少し辛辣な声がしたぞ?


 振り返ってみたら、こちらを睨んでいる金髪碧眼美少女がいた。

 見た目の年齢は、6~7歳くらいかな。

 着ているのは、光沢のある白いローブ。

 綺麗な黄金の髪を、ピンク色の5枚の花弁をもつ花の髪留めでツインテにしている。

 可愛い娘だけど、性格はキツそう。

 悠々とお茶を飲んでるし、修道服ではないし、上から目線な感じだから、メイリアさんのような侍女ではなさそう。


『誰? あの悪役令嬢みたいな子』

「ぶっ! ゲホゲホゲホッ!」


 って翔に聞いたら、お茶を吹いてむせていた。

 念話だから、他の人には聞こえていない。

 お茶が気管に入ったのかと思ったらしい神官の1人が、大丈夫ですかと声をかけて布巾のような布を手渡していた。


『悪役令嬢じゃないから。その子、聖女だよ』


 渡された布巾で顔や胸元を拭きながら、翔が念話を返してくる。

 翔が生きた20世紀の日本には悪役令嬢なんて言葉は無かったけど、後の創作界隈の流行の歴史は熟知しているそうだよ。

 そんな翔の念話も、勿論女の子には聞こえていない。


「子供は勉強が先よ。明日から授業だから予習しときなさい」

「えっ? 授業受けるの?」

「当たり前じゃない」

「どこで?」


 金髪碧眼美少女が、こちらを睨みながら授業があるとか言う。

 そんな話は聞いてないぞ。

 学校がどこにあるかも知らないし。

 女の子は優雅に椅子から降りると、スタスタとこちらへ歩いてきた。


「ついて来なさい」


 って言いながら、俺の片手を掴んで引っ張るので、彼女について行くしかないようだ。

 っていうか、俺のことチビとか言ったくせに、俺より身長低いじゃん。

 金髪ツインテ美少女に手を引かれながら、俺は食堂を出る。

 翔や神官たちは止めもせず、ニコニコしながら見送っていた。


「ここよ」


 女の子は俺を連れて神殿の建物の外へ出ると、隣の建物の入口まで歩いてきて立ち止まった。

 それは石と木で作られた頑丈な造りの大きな建物で、入口の扉の上には看板と思われる文字が書かれた横長の板がついている。


 【ラーナ神学校】。


 看板の文字は、そう書いてあった。

 異世界文字が読めるのは、転移者お約束のステータス、言語理解というやつだ。

 この身体に付与されているのは日本からナーゴに転移した際のもののコピーだけど、エルティシアの言語にも適用されるみたいだね。


「これはね、【ラーナ神学校】って書いてあるのよ。あんたはここで勉強するの」


 女の子は俺が文字を読めないと思っているらしく、説明してくれた。

 俺が無人島生活してたとか話していたから、学のない子供だと思ったんだろう。


「お金を持ってなくても授業は受けられるから。働く前にここで勉強しなさい」


 と言う女の子は、真面目そうな感じがする。

 俺が貧しくて(実際一文無しだし)、学校に行かずに働こうとしていると思われたのかも。

 初対面の相手の手を引いて案内したりするこの子は、ツンとしてるけど悪い子ではないようだ。

 むしろ、親切な子だと思うよ。


「分った。案内してくれてありがとう」


 礼を言ってから、俺はまだ女の子の名前を知らないことに気付いた。


「名前を聞いてもいい? 俺はイオだよ」

「イオ、ね。覚えたわ。私はカリン。神殿の聖女で、神学校の生徒でもあるわ」


 女の子、カリンの表情は、食堂で最初に目が合った時よりも随分と柔らかくなっている。

 洋画の子役みたいな金髪碧眼美少女は、微笑むと可愛さ三倍増しだ。


「カリン、これからよろしく」

「え、えぇ、よろしくね」


 相手が微笑むから、こちらも微笑み返したんだけど。

 カリンが少し赤くなって、なんか慌てているのは気のせいか?



 これがラーナ神殿最年少聖女、カリンとの出会い。

 カリンは孤児院の子供で、聖なる力を持っていたから大聖者(翔)に引き取られ、聖女として神殿に来た子。

 神学校では優等生のカリンは、学校に行けることや学べることに幸せを感じる子供だった。

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