第27話:聖なる力の使い方
ギルド登録のランク判定テストで少々やり過ぎた感はあるけれど、とりあえず何処へ狩りに出てもOKなランクを得られたのは良しとしよう。
普通の6歳児なら最下位のFランクで、街の人のおつかいや、森の入口付近での採集になる。
半年前の俺ならFだったと思う。
ナーゴに異世界転移してから、色々経験した。
アサケ学園で魔法や武術を学んだり、野外授業で狩りを経験したり、怪しい先生方の特訓を受けたり、蛇将軍トゥッティと闘ったり。
ナーゴの創造神様から聞いた話では、俺やモチたちが日本に生まれた理由は、日本へ行った魔族(蛇将軍トゥッティ)の討伐のためだった。
蛇将軍は気絶させて捕獲して戦闘終了したけど、神様からは任務完了という判定をもらえたので、ゲームでいうとクリアしたことになると思う。
その後に特殊空間での武神アチャラ様の特訓を始めて1ヶ月、約10年分の剣術修行をしている。
そこから今回のエルティシア行きだから、前作のクリアキャラクターデータを次作に引き継いでスタートみたいなものかもしれない。
「じゃあ、次のチュートリアルは魔物討伐だね」
「聖なる力でないと倒せないやつか。他の冒険者は討伐出来ないのかな?」
「神殿からギルドに提供される聖水や、聖なる力を付与した武器を使えば倒せるよ。大群相手だと厳しいけど」
「なるほど」
お次はゲームでよくある練習代わりの戦闘だ。
翔の案内で、次に向かったのは街の近くの森。
エルティシアは気候が温暖で、暑すぎず寒すぎず気温は25℃くらいだろうか。
森の木々は、春から初夏を思わせる新緑の葉を茂らせていた。
翔は緑色の布地のチュニックの腰を黄土色のベルトで締め、茶色の布地のズボンを穿いている。
ナーゴで着ていた学ランは、エルティシアだと転移者がいなくて目立ち過ぎるので着ていない。
俺はナーゴで狩りに行く時と同じ、白い道着に似た服を黒いベルトで締め、伸縮性のある黒い布地のスリムパンツを穿いている。
それは空手や柔道の道着を洋風にアレンジしたような服で、アズールが子供時代に着ていた遺品の1つだ。
形状記憶と防汚の魔法がかけられていて、動きやすく破れず汚れないので、俺も愛用している。
一般的な冒険者に比べてかなり軽装で森を歩いていると、翔が魔物を見つけた。
「魔物は本来は実体がない霊みたいな存在で、動物や植物に寄生すると他の生物に危害を加えるようになる。ほら、あれがそうだよ」
翔が指差す先には、ニシキヘビのようにデカい漆黒の蛇が、大木に巻き付いて締め上げているのが見えた。
薄い本に「黒は魔物の色」と書いてあるように、エルティシアで魔物化した動物は全身漆黒に変わるそうだよ。
人間が魔物化した場合も全身漆黒に変わり、白目や歯や舌なども全て黒くなるので、黒色人種とはまるで違うらしい。
「浄化!」
黒い大蛇に片手を向けた翔が起動言語を発した直後、白い光球が高速で飛ぶ。
光球が当たった途端、漆黒の蛇は白い光に包まれる。
巻き付く力を失ったのか、蛇は木から離れて地面に落下した。
「あ、色が変わった」
「邪気を浄化したからね」
落下した蛇は、全身真っ黒だったのが白と茶色の斑模様に体色が変化している。
多分それが本来の色彩なんだろう。
「イオの場合は、攻撃に聖なる力が自動付与されるように調整しておいたよ。起動言語を使うのは、浄化だけしたい時だね」
翔の説明を聞いていたら、蛇が巻き付いていた木が漆黒に染まり始めた。
まるで感染が広がるように、大木は幹から枝へ、枝から葉へと黒色に変わる。
「ああいう場合は起動言語使用だね。イオ、練習に使ってみて」
「OK」
まさにチュートリアルといった感じで、手本を見せた翔の指示を受けて、俺は漆黒に変わった大木に近付いた。
片手を幹にかざしただけで、大木はザワザワと葉を揺らして反応する。
「浄化!」
起動言語と共に、自分の手から白い光が湧き出て、大木を覆う。
一瞬白く発光した後、真っ黒だった木が元の緑の葉を茂らせた普通の色彩に戻った。
『へえ~、凄い』
『新しい聖者かな?』
『気持ちいい光をありがとう』
背後から複数の声がして、振り向いたら羽根の付いた小人たちがいた。
あの本と同じなら、風の妖精かな?
彼等は興味津々といった感じで、俺の周囲に集まってくる。
『翔、この子だあれ?』
「イオという名前の転移者だよ」
『転移者ってなあに?』
「違う世界から来た人の事だよ」
妖精たちと翔の会話を聞いていたら、何人かが俺の肩や頭に乗り始める。
俺はふと、遊園地でパンくずをあげたら乗ってきたスズメたちを連想してしまった。
『エルティシアにようこそ、気持ちいい光の人』
『空を飛びたくなったら、いつでも翼を貸すよ』
「ありがとう、風の妖精たち」
本に出てきた妖精たちの通称を言ってみたら、小妖精たちはビックリしたような顔をして、顔をじ~っと見つめてくる。
『違う世界から来たのに、どうして分かるの?』
これは正直に答えていいものだろうか?
俺はチラッと翔に問いかけの意を含んだ視線を向けた。
「僕が書いた物語を読んだからだよ」
『翔、お話を書いているの?』
「そうだよ」
翔が代わりに答えてくれた。
妖精たちはイマイチ分かってない感じだ。
とりあえず異世界から来たことや薄い本の話は、妖精たちに隠す必要は無いらしい。