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【完結】オフセット印刷から始まる異世界転移  作者: BIRD
第1章:禁書閲覧室の薄い本

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第21話:時の封印

挿絵(By みてみん)


『さて、翔が先走ってしまったが、私もエルティシアの創造神からも頼まれた事がある』

「え?」


 落ち込んで黙ってしまった翔に代わるように、神様が言った。

 異世界の創造神からの頼まれ事って何だろう?

 キョトンとする俺とは対照的に、エカとソナは何か察したように顔色を変えた。


「まさか、また……?」


 俺を抱き締めているエカの腕の力が強まる。

 俺が逃げないようにというよりは、俺が連れ去られないように警戒しているのが分かる。

 まるで、何かを恐れているような感じだ。

 エカは何を警戒している?


『イオ、エルティシアに行ってくれるか?』

「やめて下さい!」


 神様の言葉に、俺が聞き返すより早くソナが反応した。

 エカは俺を隠すように抱き締めたまま、世界樹に背を向ける。


 昨日行って死にかけたからな。

 俺がこの世界から出ると死ぬって知ってて、行けという神様の意図が分からない。

 エルティシアの創造神が俺の死体を使って何かするのか?


「せっかく戻って来てくれたのに、またお別れなんて嫌です!」


 ソナはどうしてそんなに必死で叫んでるんだろう?

 隣にいるリヤンまで涙目になっている。


 戻って来たといっても、俺はアズじゃない。

 ちょっと死んでも、こちらへ転生するらしいから、気にしなくていいんじゃないかな?

 来世もアズと同じ容姿に生まれてくるか知らないけど。

 記憶の無い転生者なんて、誰でもいいと思う。


「エルランティス様は俺の死体に用があるんですか?」


 俺の発言に、エカがビクッとするのが感じられた。

 胸元にいるルビイが服の中から出てきて、両翼で俺の首に抱きついてくる。


『死体ではなく、生きている其方に用があるそうだ』

「俺は行っても、すぐ死んじゃいますよね?」

『行っても死なずに済む方法がある』


 一同の中でいちばん冷静なのは、当事者の俺だった。

 とりあえず俺の死体に用は無いらしい。

 死なずに済む方法って何だろう?


「やめて下さい……俺は……この場所で弟を2度も亡くしたくないです……」


 神様との会話が聞こえている筈なのに、何故かエカは俺が死ぬと思ってる。

 死なずに済む方法があると言ってるよ?

 俺が死ぬことはないと思うけど?


『落ち着きなさい。魂を抜き取って送るわけではない』


 神様の言葉を聞いて、俺はソナやエカが必死な理由を察した。

 この場所で、俺の前世アズールは神様に魂を抜き取られて死んだ。

 それは、転移不可能な地球へ転生させるためだったと聞いている。

 魔王にこの世界に転生固定された魂でも、神の力なら異世界へ送れるのか。

 あれ? でも違うっぽいな。


「転生じゃない方法を教えて下さい」


 エカたちとは対照的に、俺は冷静さを保ちながら訊いた。

 未知のものへの好奇心が、ちょろっと出てくる。

 翔に拉致られた時は異世界転移なんかもうお腹いっぱいだとは言ったけど。

 エルティシアの創造神からの頼み事っていうのが気になる。


『魂ではなく、心と記憶を抜き取って転移させるのだ』

「なるほど。それなら死なないし、戻そうと思えば戻せますね」


 つまり、今のアズやルルみたいな霊っぽいものになって行くのか。

 抜け殻になった身体は世界樹の中に入れておいてもらえるのかな?


『行ってくれるか?』

「はい。空っぽになる肉体(うつわ)は預かってもらえますか?」

『前世とその妻の身体と一緒に保管しておこう』

「じゃあ、行ってもいいですよ」


 何の用なのか、向こうの神様と話してみよう。

 俺は承諾の意を示した。


「では、エルティシアには僕が案内するよ」

「やめろ、来るな!」

「連れて行かないで!」

「……え~と、みんな、少し落ち着こう?」


 神様と話がつくと、今まで世界樹の傍らで大人しくしていた翔が進み出てきた。

 エカが俺を抱えてズザッと後退する。

 警戒するエカとルビイに加えて、ソナやリヤンまで間に入り、翔が俺に近付くのを阻む。

 フラムやリアマまで出てきて、不死鳥が3羽に増えたよ。

 この一家の召喚獣、不死鳥ばっかりだな。

 って思ってたらソナが従える残り6体の召喚獣たちまで出てきて、俺と翔の間に割り込んだ。

 おかげで翔の姿が全然見えないぞ。

 苦笑して言ってみた俺の言葉は、必死な3人と召喚獣たちにスルーされた。

 死なないって言ってるんだから、そんなに警戒しなくてもいいのに。


「こちらに帰るまで、イオの生命の時を止めておくよ」

「それって、もしかしてレア魔法の【時の封印(ルタンアレテ)】?」

「起動言語を知ってるって事は、イオは習得出来たんだね」

「うん」


 そんな会話を、エカたち越しに翔と交わす。

 警戒を解こうとしない人々と召喚獣たちに構わず、翔はレア魔法を起動した。

 相手を目視出来なくても、その魔法の効果は及ぶ。


時の封印(ルタンアレテ)


 翔が起動言語を発した直後、俺の身体が2~3秒ほど蛍の光のような緑の燐光に包まれた。

 俺を抱いているエカが驚いて、一瞬ビクッと体を強張らせる。

 ソナやリヤン、召喚獣たちまで一斉にこちらを見た。

 【時の封印(ルタンアレテ)】は生きている者に使えば、不老不死に似た状態を作り出す。

 特に何も変化していないように見えるけど、魔法はしっかりかかっている。 


「これでイオの生命の時は止まった。その状態なら何も食べなくても、息をしなくても、心臓が動いてなくても、生き続けるよ」

「……なんかそれ、ゾンビみたいで嫌だな。ってエカ、何してるの?」


 翔の説明を聞いていたら、エカが何か確かめるように俺の胸に耳を押し当てる。

 心音を確認してるみたいな?


「……心臓、止まってる……」


 エカが、鼻の穴広げて真顔になる。

 動揺した時の変顔、久しぶりに見たけどシリアス場面ブチ壊しだね。

 っていうか俺、心臓止まってるのか。

 全然苦しくないぞ。

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