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【完結】オフセット印刷から始まる異世界転移  作者: BIRD
第1章:禁書閲覧室の薄い本
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第20話:現世の肉体

挿絵(By みてみん)


 翌朝、俺はエカたちに付き添われて、世界樹の根元を訪れた。

 昨日の身体の異変について聞きに行くと言ったら、エカたちも知りたいと言ってついてきている。

 禁書【異世界の歩き方】には、ナーゴの民の転移・転生は理論上は可能と記載されていた。

 理論上って書いてあるということは、実際に行ってみた人がいないんじゃないか?

 それで実際に行ってみた俺が死にかけたんだから、何か問題のある世界かもしれない。

 大気や水や土壌は【聖なる力】によって定期的に浄化されているって書いてあったけど、その聖なる力が弱まってるとか?


 あと、俺をエルティシアに連れて行った翔が何者かも気になる。

 薄い本の作者は天寿を全うしたってタマが言ってたから、とっくにお亡くなりになっている筈。

 翔は転生者なのかもしれない。



 昨日、俺が倒れていたという辺りまで来ると、翔が佇んでいるのが見えてきた。

 そういえば昨日、気を失う前まで翔に抱えられてた筈だけど。

 エカたちが駆けつけた時には、俺しかいなかったらしい。

 翔は俺を世界樹の根元に置いて、どこへ行っていたんだろうか?

 服装も昨日とは違って、学生服ではなく冒険者っぽいものになっている。


「イオ、昨日はごめんね」


 こちらに気付くと、翔は謝ってきた。

 翔は、まるで調子に乗り過ぎて失敗した子供のような、ションボリした顔をしている。

 昨日とは随分とテンションが違うような。


「翔、昨日俺に何をしたの?」

「エルティシアに御招待しただけだよ」

「イオ! そいつに近付くな!」

「へ?!」


 俺の問いに翔が答えた途端、後ろにいたエカが凄い勢いで俺を抱き寄せた。

 何を慌ててるんだ? エカ?

 エカは自分の身体で俺を隠すように抱き締めながら、翔を睨む。

 幼い我が子を庇うお父さんみたいになってるぞ、エカ。双子の筈なのに。


「つまり、お前がイオを殺しかけたんだな?!」


 しかもなんか、エカめちゃくちゃ怒ってる?

 おまけにルビイまで俺を庇うように前に出て、フーフー威嚇してるし。

 威嚇してる不死鳥を見て、俺は日本にいた頃に見た白鳥の威嚇を連想したよ。

 白鳥の威嚇は口を半開きにして、シャーッとかフーッとか猫の威嚇のような音をたてるんだ。

 で、なんでそんなに怒ってるの、君たち。


「ごめんなさい。まさかあんな事になるなんて思わなくて……」


 涙目で謝る翔は、本当に知らなかったんだろう。

 俺に殺意があったなら、そもそも抱き上げたりは出来ない。

 エルティシア御招待は、遊びに連れて行くくらいのノリだったと思う。

 っていうか、あの時俺の身体に何が起きたんだろうか?


「俺もまさか2回目の異世界転移で身体に異常が出るとは思わなかったよ」

『イオの肉体は、当代の魔王の力でこの世界に固定されている』


 俺の疑問に答えるように、創造神(かみさま)の【声】が一同の頭に響いた。

 当代の魔王って、アズとルルの息子だったっけ。

 名前は聞いてないし、どんな人なのかも知らない。

 SETAのATP事業部の従業員765名をまとめて転移させるような力を持つ事は聞いた。


『イオは異世界に移動すると、死亡してこちらに強制転生されるだろう』

「「強制転生?!」」


 久々に、俺とエカがハモる。

 つまり、あの時の謎の力は当代魔王の力か?

 俺は青ざめて自分の胸に手を当ててみた。

 昨日は死ぬほど痛かった(というか死にかけた)けど、今は全く痛みは無い。


 ルビイがサッと飛んできて、鳩サイズのまま俺の服の胸元にスポッと入り込んだ。

 可愛いし温かいけど、君は何がしたいんだ?

 俺を護ってるつもりか?


 っていうか俺、この世界から出たら死ぬの?

 なにそれ怖い。


「……完全回避は……?」

『異なる神の世界ゆえ、効果は及ばぬ』


 恐る恐る訊いたら、予想通りの答えが返ってきた。

 こっちの世界なら老衰以外で死ぬ事は無いと言われる、俺のユニークスキル【完全回避】。

 地球と同じで、エルティシアでも無効化されるらしい。


「僕、知らなくて……」


 と言う翔は、とうとう泣き出してしまった。


「……エルティシアに移動した途端にイオが苦しみだして、慌ててここへ運んだら神様に言われたんだ」


 泣きながら昨日の経緯を話す翔。

 意識の無い俺を世界樹の根元まで運んだのは、やはり彼だったようだ。


「どうすればいいか訊こうとしたら、不死鳥が凄い勢いで飛んでくるのが見えて、咄嗟に隠れちゃったんだよ」


 翔はルビイがスッ飛んでくる気配に気付いて思わず隠れてしまったらしい。

 当のルビイは、俺の服の胸元から頭だけ出してフーッて威嚇した。

 いや、その姿で威嚇しても迫力全然ないぞ?


「死にかけてる奴を地面に置いて逃げんなよ」


 エカは俺を抱き締めたまま、眉間にシワを寄せて翔を睨む。

 こんなに怒ってるエカ、初めて見たぞ。

 俺が今まで見てきたエカは、悲しそうな顔が多かったけど。

 今は噴火前の火山みたいに、怒りが沸いている感じがする。

 お父さんそんなに怒ったら血管切れるよ?


「ごめんなさい」

 

 泣きながら謝る翔は昨日より小さく見えた。

 ソナとリヤンは無言だけど、抗議の視線を向けている。


『誰かを異世界転移させるなら、まずここへ報告に来なさい』

「……はい……」


 怒ってはいないけど、神様もクギを刺した。

 反省しているらしく、翔はションボリ項垂れている。

 悪気は無かったみたいだし、もう許してあげてもいいんじゃないかな?

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