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【完結】オフセット印刷から始まる異世界転移  作者: BIRD
第1章:禁書閲覧室の薄い本

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第18話:身体の異変

挿絵(By みてみん)


「はい、到着。ここがエルティシアだよ」


 翔の言葉は、俺にはそこまでしか聞こえなかった。

 転移した途端、心臓を握り潰されるような激痛を感じたから。


 こんなの、今まで経験したことがない。

 胸が締め付けられるとか、そんな生易しいもんじゃない。

 見えない力が心臓を包んで、収縮しながら潰しにかかっているような……

 俺は両手で胸を抑えて目を閉じ、必死にその力に抗った。


 肺も同じ力に侵食されて、満足に呼吸が出来ない。

 声も出せず、意識が朦朧とし始めた。

 この力は、俺を殺そうとするものだ。

 死にたくない。

 まだ、やりたいことがいっぱいある。

 この身体の余命はあと994年もあるのに、こんな謎の力に殺されたくない。


 何故かエカの顔が脳裏に浮かぶ。

 泣きながら「死ぬな!」と言われた気がする。

 もしもエカがこの場にいたら、間違いなくそう言う筈。

 念話は繋げてないけど、エカは何か感知しているのだろうか?

 エカのイメージが浮かんだら、謎の力が少し弱まったような気がする。


 双子は、強い絆で結ばれている。

 以前聞いた、アチャラ様の言葉も浮かんだ。


 意識を保てたのは、そこまでだった。


「え?! どうしたの?!」


 驚く翔の声を微かに聞いた辺りで、俺の記憶は一旦途切れた。


   ◇◆◇◆◇


 意識が浮上してきた時、俺は唇に何か柔らかいものが触れているのを感じた。

 頬に触れているのは、誰かの髪か?

 目を開けると、エカの顔が間近にあるのが見えた。

 甘苦い味が口の中に残っている。

 この味は、よく知っている薬だ。

 エカが飲ませたのか?

 口移し、俺が飲ませてやった時は泣くほど嫌がってたくせに。


「あ、気がついたみたい」


 と言う声は、ルビイか。

 その声にハッとしたように、エカが顔を離した。

 ルビイはエカの妻ソナの召喚獣だけど、孵化させたのがアズだったらしい。

 それで、アズの魂を持つ転生者の俺とも繋がりがある不死鳥だ。


「大丈夫か? どこか痛いところはないか?」

「……うん」


 エカに訊かれて、俺は自分の身体に痛みは無いことを伝えた。

 まだ頭がボーッとしていて、身体の感覚がイマイチ分からないけど。

 何だろう? 俺どうしたんだっけ?

 とりあえず、エカに完全回復薬(エリクサー)を飲まされた事は分った。


「なんで、お前が死にかけてんだよ……」

「……え~と……なんでだろう?」


 見るのはもう何回目か忘れた、エカの泣き顔。

 聞かれても、何が起きたか俺もよく分からない。

 ふと視線を巡らせると、今いるのは世界樹の根元だと分った。

 俺はエカに抱かれていて、隣にエカの妻ソナと不死鳥ルビイ、エカの息子リヤンまでいる。


「いつからここに?」

「ついさっきだ。ルビイが突然スッ飛んで行くし、何か胸騒ぎがしてここに来たら、お前が倒れてた」

「まだ生きてるから蘇生出来ないって言ったら、エカが完全回復薬(エリクサー)を飲ませたの」


 エカとルビイの話から彼等の状況は分った。

 けど、自分に何が起きたかは分からない。


「イオは倒れる前に何があったか覚えてないの?」

「いつもの読書タイムで、図書館にいたような?」


 ソナに聞かれて答えつつ、記憶を探る。

 意識を失う前に、何があったっけ?


「そうだ思い出した。確か【読者サービス】とかで、異世界に招待されたんだ」

「読者サービス?」

「それで死にかけるって、呪いの本じゃないの?」


 思い出した事を話したら、リヤンがキョトンとして、ソナには呪いを疑われた。

 でも呪いなんて、完全回避があるから、俺には普通は効かない。


「その異世界って、まさか地球じゃないよな?」


 ってエカに訊かれた。

 世界樹の民が地球へ転移すると、汚染大気に耐えられず死亡するらしい。

 地球の場合は完全回避が無効化されて、俺でも死亡すると聞いている。

 でも、俺が連れて行かれたのは地球じゃない。


「地球じゃないよ。エルティシアって世界」

「知らないな……とりあえず、今後むやみに異世界転移禁止だぞ」


 言いながら、エカは俺を抱えて歩き出す。

 完全回復薬(エリクサー)が効いて全快してるから、もう歩けるんだけど。

 放したら逃げると思われているのか、エカはしっかり縦抱きしている。 

 ソナたちも一緒に歩き出し、俺はエカたちの家に運ばれた。


「今日は泊まっていけよ。死にかけたばかりの奴を独りで帰せないからな」

「わ、分ったよ」


 エカは自宅の客室へ俺を運ぶと、ベッドに寝かせて言った。

 完治しているから安静にする必要は無いんだけど、随分と過保護だ。

 とはいえ、さすがに今回は観念するしかない。

 ソナがポタージュスープを作って持ってきてくれたのを美味しく頂いて、大人しく寝ておくことにする。


 ルビイの話では、発見時の俺は殆ど息をしてなくて、心臓も止まりかけていたらしい。

 俺を殺そうとしていた謎の力は、ルビイが診た時には消えていたという。

 ダメージは深刻で、発見が遅かったら死亡していた筈だと言われた。

 不死鳥が2羽もいるんだから、俺が心肺停止してから蘇生でもよかったかもね。

 けど、エカは待てずに完全回復薬を飲ませたらしい。

 その様子は以前エカが大怪我した時の俺と同じで、全く躊躇なく行動したそうだ。

 フラムに「似た者同士だね」と言われた。否定はしない。


 運ばれた先がジャスさんとフィラさんの家ではなく、エカたちが住む家だから、まだいいか。

 過保護スイッチが入ったエカに添い寝されて、その夜はお泊りコースになった。

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