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【完結】オフセット印刷から始まる異世界転移  作者: BIRD
第1章:禁書閲覧室の薄い本
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PROLOGUE

 瀬田史郎が開発した異世界転移装置によって、異世界との行き来が珍しくはなくなった時代。

 異世界の街をイメージして作られたテーマパークで、住み込み従業員765名が一斉に異世界へ飛ばされた。

 その原因は転移装置の誤作動ではないかと噂されたが、テーマパークを運営する株式会社SETAは「調査中」とコメントするのみで、現在も明らかにはされていない。

 転移先の異世界ナーゴが比較的平和で、過去にも日本からの異世界転移があったことから、飛ばされた人々はそれほど苦労は無かったと語っている。

 そうして発見された異世界ナーゴは、現在では自由に行き来出来る異世界となり、多くの観光客が訪れる場所。

 SETAの異世界派遣部も新設され、異世界で働きたい人々が派遣社員として勤務するようになった。


 ……というのが地球のマスコミ上の情報。


 おおむね間違ってはいないけれど、原因が「魔王の力」によるものだったことを、俺は知っている。

 ナーゴを出て日本に潜伏する魔族を引き戻すために、魔王が使った力による大規模転移。

 潜伏先がテーマパークだと分ったものの、誰が魔族か分からなくて、従業員をまとめて転移させたらしい。

 随分と雑な力の使い方をする魔王だな。

 まあ、飛ばされた者は魔族も含めて無事だったから、雑でも問題無いのかもしれない。

 引き戻された魔族は俺とモチが捕獲して、魔工学部の教師が拘束している。

 もう悪さしないように「監禁調教」するらしいよ?

 まあ、他人事なので気にしないでおこう。


 転移された者の中には、神から魔族討伐を命じられ日本に転生した勇者一行がいた。

 彼らはナーゴに引き戻された際に「前世返り」が起き、前世の幼少期の身体に変わってしまった。

 地球の大気はナーゴの住民には猛毒で、前世の身体では行けないという。


 5人の転生者に、神は問うた。


 このままナーゴに残って生活するか、ナーゴで過ごした記憶を無くす代わりに日本人の身体に戻り地球へ帰るか、どちらを願うのか、と。


 5人のうち1人は、ナーゴ転移の記憶を捨てて日本へ帰還。

 3人は、霊となって残っていた前世の「記憶と心」を体内に取り込み、身体の支配権を渡した。


 残る1人は、現世の人格を維持したまま、前世の世界で生きてゆくことになる。

 それが俺、神様に【イオ】と名付けられた魂の持ち主だ。



挿絵(By みてみん)



『転生者、お前はお前のまま、この世界で生きろ』


 前世アズールの霊は、そう言って俺には記憶と心を渡さなかった。

 彼は、霊としてそこにいることを望んだ。


 その時は、俺は別に構わないと思っていた。

 記憶を取り戻せないことが、あんなにも前世の家族を悲しませるとは思ってなかったから。

 前世の兄エカが、記憶を取り戻すとは予想してなかったから。


「俺がアズールの記憶と心を継承する事はありません」


 そう告げた時、前世の両親ジャスさんとフィラさんは泣き崩れた。

 先に前世の記憶と心を継承したエカを見ていただけに、期待からの絶望が大きかったようだ。


「……ごめんな……俺だけが前世に戻って……」


 エカはそう言って泣いた。謝る必要ないのに。

 双子の片方だけでも、親子として暮らした記憶が戻ったのは良い事だろうに。

 ジャスさんとフィラさんは、エカがいればなんとかなるだろう。

 死んだ息子にそっくりの中身他人は、離れることにするよ。


「俺はこっちに住むよ」

「そうか。家の中にある物は好きに使っていい」


 前世の家族から離れて、無人島の空き家へ来た俺に、前世の霊は遺品をくれた。

 最低限の生活用品は揃っているから、無人島での独り暮らしも悪くない。


「攻撃魔法科から武道科への移籍、受理したニャン」

「ありがとうございます。寮は出て、自宅から通います」

「では、通学にはこの転移ブレスレットを使うといいニャ」


 三毛猫学園長は、俺の学科移動を快諾してくれた。

 俺は身体強化魔法は覚えられたけど、攻撃魔法はからっきしだったから、物理攻撃系で再スタートだ。

 学園長に寮を出ることを話したら、学園の転送陣まで瞬間移動出来る魔道具をくれた。


「この世界に残ってくれたんだね。時々ここへ来てくれたら嬉しいな」

「もちろん毎日来るよ。ここの本を全部読み尽くすまで通うつもりだから」

「ふふっ、1億冊以上あるよ。いつまで通うことになるかな?」

「俺のこの身体、世界樹の民って1000年くらい生きるんだっけ?」

「そうだね。イオの身体は6歳の状態だから、あと994年くらいじゃない?」

「地球人にとっては途方もない寿命だよ」


 俺が俺のままこの世界に残ることを、いちばん喜んでくれたのは神霊タマだった。

 もともと大好きだった図書館は、今では俺にとって最も心安らぐ場所。

 なんか寿命がやたら長いんだけど、本があれば生きていける!

 そんなわけで、俺は今日も図書館通い。

 俺の指定席は、タマの姿が視える者だけが入れる、禁書閲覧室だ。

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