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【完結】オフセット印刷から始まる異世界転移  作者: BIRD
第1章:禁書閲覧室の薄い本
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第16話:次のオススメ

挿絵(By みてみん)


 薄い本の物語は、そろそろ終わりに近く、明日には読み終わりそうだ。

 ボスキャラは主人公の前世と何か繋がりがあるらしい。

 短い読書タイムを終えて、俺はタマに本を返した。



「今日はここまでにしておくよ。明日で読了だと思う」

「じゃあ、それを読み終わったら次はこれなんかどお?」


 タマが次のオススメ本を棚から引っ張り出して、表紙だけ見せてくれた。

 黒い表紙だから、禁書だな。

 珍しい事に、表紙に金色の魔法陣が描かれている。

 ここの禁書の表紙は文字ばかりで、イラストや図形が描かれた本を見るのは初めてだ。


「魔法陣付きなんて珍しいね」

「これは特別な本だから。王族も知らない物だよ」

「そんなのを俺なんかが読んでいいの?」

「この本を読む条件は、身分じゃないよ」


 どんな条件だろう?

 俺がそれを満たしたってことかな?

 タマの言葉は気になるけど、とりあえず次の本を読む時のお楽しみにしておこう。


「じゃあ、薄い本の次はそれにするよ」

「はーい」


 俺はそう言って、図書館を出た。

 タマはニコニコしながら見送ってくれた。


 ……さて。


 いつもならこの後に剣神アチャラ様のところで剣術修行だけど。

 今日は順番を変えて、先にギルドの用事を済ませよう。


「あら、今日は早いですね」

「うん。こっちを先に済ませに来た」


 ギルドの受付嬢に話しかけたら、いつもと時間が違うから珍しがられた。

 いつもなら夜勤の受付嬢がいる時間帯に来てるから、俺が日没前に来るのは珍しいだろうね。


「昨日は遅くまでかかったみたいだから、今日は早めに来たんですか?」

「そうそう、イレギュラーなことが起きてバタついたからね」


 昨日のクエスト報告は、エカに拉致されたせいで真夜中、かなり遅くになったんだ。

 この世界のギルドはコンビニみたいな24時間営業で、深夜でも受付嬢が対応してくれる。

 俺は討伐クエスト参加カードを受け取り、ギルドハウスを出た。


 街に隣接する四季の森、そこにあるダンジョンはアサケ学園の生徒の練習場であり、狩り場でもある。

 学生たちはそこで狩れるものや採れるものをギルドに持って行き、お小遣い稼ぎをしていた。

 俺もその1人で、今日はカモカモという鳥型の魔物を狩りに行く。


「クワッ?!」

「はい、ごちそうさま」


 俺を狙ってサマーソルトキックを仕掛けたカモカモは、スカッと攻撃空振りした。

 空中で無防備になったカモカモの腹にブスッと剣を刺して、あっさり討伐完了。

 斃したカモカモは鮮度を保てる異空間倉庫(ストレージ)に収納して、次々に狩る。

 クエストの規定数に達したところでダンジョンを出て、ギルドハウスの解体場に獲物を運んだ。

 解体魔法くらいは使えるので、場所だけ借りて自力で解体を済ませて、クエスト対象部位をギルドに提出した。



 次に向かう建物は、比較的最近建てられたもの。

 新しい材木の香りがする、SETAナーゴ支部の建物だ。


「今日の素材を納品に来ました、検品お願いします」

「あれ? 早いね」


 続いてSETA異世界派遣部の事務所へ寄って、納品を済ませる。

 こちらでもいつもより早い時間なので珍しがられた。


 異世界派遣部の素材集めは、ギルドクエストのついでにしている。

 だからいつもは日没後に来るんだけど、今日は明るいうちに納品を済ませた。

 納品後は、一旦帰宅して自宅で夕飯を済ませて、少し仮眠をとる。


 神様には時間帯とか関係無いから、セレスト家の人々が寝静まってから行こう。

 昨日みたいに修行空間から出た直後に捕獲されたら困る。

 今日はエカやジャスさんやフィラさんが寝ている時間帯に世界樹の森へ向かった。



「なかなか苦労しているようだな」


 剣神アチャラ様に、事情を話したら苦笑された。


「神様の力で、あの人たちから俺に関する記憶を消せませんか?」

「それは出来ぬ。家族、特に双子は絆が強すぎて記憶を消せないのだよ。出来るのは、心そのものと一緒に記憶を引き剥がして、何かに宿らせる事だな」

「ルルや俺の前世が、樹木や島に心と記憶を残したみたいなものですね」

「そういう事だ」


 神様からの残念なお知らせにがっかりしつつ剣術修行はしっかりこなして、俺は修行空間を出た。

 さすがに深夜にエカの待ち伏せは無いようだ。

 ホッとして魔導具を起動して帰ろうとした時、俺は見てしまった。

 深夜の森の中、青白い燐光を放つ人影を。


 やばい、これは此の世のものじゃないやつだ。


 向こうに気付かれる前に、俺は急いでアサギリ島へ転移した。


 ……が、着いた途端、前方に青白い人影が!


 タマやルルやアズは別として、俺は出来れば霊の類とはお近づきになりたくない。

 家の中までついてきたら嫌なので、俺は後ずさりでルルの木に近付いて、幹に背中を押し付ける。

 頼む、ルル出てきて。

 目には目を、霊には霊をってことで、俺はルルを頼った。


『イオ、どうしたの?』


 異変に気付いたルルの霊が出てきてくれた。


「ゆ、幽霊に追われてる」


 頬を引き攣らせて、俺は短く答える。

 ルルは俺の隣にフワリと移動して、俺の前方にいる人影を見た。


『大丈夫、あれは幽霊じゃないわ。神格化してるからタマと同じ神霊ね』


 ルルは微笑んで教えてくれた。

 そうか神霊か。

 どうりで、タマと同じで霊気同調(チューニング)無しで視えるわけだ。


「……で、その神霊が、どうして俺を追いかけて来たの?」

『そろそろだろうから、挨拶に来たんだよ』

「え?!」


 ルルに聞いたつもりが、青白く光る神霊が答える。

 そろそろって何が?


『……なるほど、経験者か。なら適応は早そうだ』

「何の?!」


 神霊は近くまで来ると、俺の顔をじっと見つめるような仕草をする。

 顔が無いから、実際に見てるのか微妙だけど。

 言ってる内容は何の事か、よく分からない。


『ま、今日は顔を見に来ただけだから。またね』


 そう言って微笑むと、神霊の姿は消えた。

 青白い人影は、顔も性別も分からなかった。

 人の形をした燐光という方が合ってるかもね。


『イオ、なんか気に入られたみたい?』

「……勘弁してくれ……」


 神霊が消えた辺りを見つめて、ルルの霊が言う。

 俺はまた頬を引き攣らせて呟いた。


 ……っていうか「またね」とか言った?


 いや、もう来ないで。


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