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【完結】オフセット印刷から始まる異世界転移  作者: BIRD
第1章:禁書閲覧室の薄い本
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第15話:溺愛か?

挿絵(By みてみん)


 禁書閲覧室の薄い本を、残り10話くらいかなというところまで読んだ。

 主人公、前々世?の母親との再会して、そっちの記憶まで出てきたぞ。

 子守歌まで覚えているくらい鮮明に思い出したっぽい。

 前々世までも記憶が戻る……というか、その心も引き継げるのか。


 俺は前世の子守歌なんて覚えてない。

 前世の母親との再会直後は「母さん」という言葉が無意識に出たけど。

 その人との思い出とかは全く思い出せなかった。

 今はあえて他人として「フィラさん」と呼ぶようにしているよ。




 世界樹の森、神様の修行空間出口付近。

 日課の剣術修行を終えて外に出た途端、俺はいきなり抱き上げられた。

 一瞬、人さらいかと思ったぞ。

 でもよく考えたら、俺に害のある者は接触出来ないから、人さらいに抱き上げられることはない。


「イオ! 今日こそ連れて行くぞ」

「えっ?!」


 誰かと思ったらエカで、俺が逃げないようにしっかり捕まえて縦抱き状態で歩き出す。

 抵抗して暴れる俺の背中を、ヨシヨシと軽く叩いてあやしている。


 っていうか俺、子供じゃないし!

 いや、身体は子供だけどさ。

 精神年齢は日本で20年生きた成人男子だ。


 この時だけは子供の姿はやめて、エカと同じ成人に変身しておけばよかったと少々後悔したよ。

 同じ体格なら、こんな簡単に連れ去られなかっただろう。

 6歳児の小さい身体は、長身痩躯で筋力は平均的な成人男性並みにあるエカに、軽々と抱えられ運ばれてしまう。

 どこへ連行されるのかは、すぐに分った。

 よく知っている、出来れば近付きたくない家だ。


「おいおいおい、勘弁してくれよ」

「駄目だ。観念しろ」


 エカの腕から抜け出そうとしても、抱き締める力を強めて離してくれない。

 放せ放せと暴れてグーで殴っても、痛い痛いと言うだけで全く効果が無かった。

 その顎に頭突きをかましてやったら、さすがに痛かったのか立ち止まったものの、絶対逃がすもんかって執念があるらしく腕の力は緩まない。

 おまけにフラムがサッと出てきてエカの頭に羽毛を1つ乗せると、顎も含めてこれまで俺が暴れてつけた傷が全部完治してしまった。

 不死鳥の羽毛は、軽傷なら治す力を持っている。

 エカは俺を抱いて歩き出し、やがて木々の向こうに見えてきたのはセレスト家の建物。


「やめろ。行きたくない」

「なんでそんなに拒絶するんだよ」

「家族のフリなんかしたくない」

「なら、友達の家に泊まりに行く感じでいいから来い」


 言い合ってる間に着いてしまった、玄関前。

 声が聞こえたのか、木戸を勢いよく開けて飛び出して来たフィラさん。

 彼女はエカから俺を受け取って、これまた逃げないようにガッチリ縦抱きで家の中に入る。

 さすがに女性を殴るわけにはいかず、俺は諦めて大人しく抱っこされていた。

 完全回避がこういう時には発動しないのが恨めしい……。


「やっと来てくれたのね」


 フィラさんが半泣きで俺を抱き締めながら言う。

 その隣ではエカが、なんかホッとしたような顔でこっちを見ている。


 ……自分の意志で来たんじゃなくて、拉致られて来たんだけど。


「会いたかった……」


 ……本当に会いたいのは【アズ】だろ。


 言い返したかったけど、俺は沈黙を続ける。

 抱き締めているフィラさんの肩に顎を乗せて、無の表情になっていた。


「ただいま~。……おぉっ?! やっと来たか!」


 しばらくするとジャスさんが畑仕事から帰ってきた。

 俺がいると気付いた途端に駆け寄って、こちらもガッチリ縦抱きだ。

 ここまでくると、小学生に無理やり回し抱っこされている小動物の気分になってくるよ。


 ……もう、どうにでもして。


 俺はもう抵抗する気を無くし、セレスト家の人々にされるがままになった。

 どうやらエカが俺を捕まえたのは計画的犯行(?)だったらしく、夕食は俺の分まで用意されている。

 ジャスさんは俺が逃げないように膝に乗せて座り、フィラさんが俺にゴハンを食べさせて、エカはそれを眺めつつ自分のゴハンを食べ終えるとジャスさんと交代した。

 俺に食べさせ終えるとフィラさんが自分の食事をとり、全員が食事を済ませると風呂に連れて行かれた。

 セレスト家の風呂は広くて、4人全員で入れるくらいだ。


 ……ちょっと待て。


 エカとジャスさんはともかく、フィラさんも一緒はマズイだろ。

 俺は見た目は6歳児だが、中身は成人男子、それも他人だぞ?


 でも不思議な事に、フィラさんの裸を見ても、異性として意識してしまう事は無かった。

 若く美しいまま何百年も生きる世界樹の民、フィラさんは20代女性の若々しさを保っている。

 美人だしスタイルもいいから普通は意識するところだけど、見ても俺は平常心のままだった。


「じゃ、俺はソナと一緒に寝るから帰るよ」


 お風呂を済ませると、エカはそう言って俺を置き去りに、妻子がいる自宅へ帰っていった。

 ……おいこら、俺を置いていくのか。


「……じゃあ、俺も……」

「今夜は一緒に寝ようね」


 帰ると言いかけた俺は、ネグリジェに着替えたフィラさんに寝室へ連行された。

 パジャマ姿のジャスさんも一緒に来て、川の字でベッドにIN。


 ……って、このままお泊りコースなのか。



 真夜中、夫婦が熟睡したところで俺はベッドから抜け出した。

 ジャスさんとフィラさんの間、俺が寝かされてた位置には、枕を1つ突っ込んでおく。

 悪いけど、朝までここにいる気は無い。


 セレスト家の外に出ると、俺は転移用魔道具を起動してアサギリ島の自宅へ帰った。

 明日からはみんな寝てる時間帯に修行しよう。

 それか、アチャラ様にお願いして修行空間の出入口を変えてもらおうかな?

 エカに拉致られるのも、ジャスさん&フィラさんの溺愛モードも、1回で充分だ。


 俺は、あの人たちが求める者じゃない。

 あんな家族ごっこはもう勘弁してほしい。

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