穏やかな日々
三百年ぶりに目覚めてから初代ジェラルドの生きてきた日々をソニアは知った。
あの満月の夜ソニアが眠りについたあと、ジェラルドは毎日ソニアに会いに来て語りかけていた。結婚したその日も、子供が産まれた日も一日も欠かさず死ぬ直前までソニアの側に居た。
ジェラルドはルアーナと結婚し、男の子一人だけ授かりルアーナや周りの臣下がせめてもう一人と言ってもジェラルドは子供を作る事はしなかった。その頃には誰が見てもわかるほどジェラルドは眠るソニア愛しソニアに全てを捧げ死ぬ瞬間までその想いを貫いた。
ジェラルドは国のためにルアーナと結婚し子供を作り彼は皇帝として使命を果たした。
だから誰もジェラルドを責める事はできなかった。生きている間にソニアに会えないと知っていたジェラルドは自分が居なくなってもソニアが不安にならないように自分の息子に私を大切にする様に伝えて、その息子がまたその息子へそう伝え続けジェラルド三世まで来た。
ソニアはその事実を皇帝から聞き、ジェラルドの想いに咽び泣いた。そんなソニアを小さな天使が抱きしめ、ソニアの気持ちが落ち着くまでずっと手を握り側から離れなかった。
ソニアはあの頃ジェラルドに愛されていたとは思っていなかった。ジェラルドはルアーナを愛していると思っていた。だからジェラルドがそんな想いを持ってソニアに接していたとは思いもよらなかった。ジェラルドの気持ちを知ったソニアはジェラルドを責めた事を思い出した。「ジェラルド、レオナルド殿下から花を頂いた時、あんな事をいってごめんなさい」「あの時もわがままいってごめん」「でもジェラルドだって少しは気持ちを言ってくれてもよかったのに!!」ソニアは最初こそジェラルドの想いを知り悲しかったが、だんだんと怒りが湧いてきた。「何なのよ!思い出せば初めて会った時私をおばさん呼ばわりしたわよね?やっぱりジェラルドは失礼で勝手な人だったわ!!」ソニアは様々な思い出よみがえり怒りだした。その様子を傍で見ていたジェラルド三世フフフと笑い言った。「ソニア、もう大丈夫そうだな」「あ、ごめんなさいジェラルド三世様、いつも私を慰めてくれて本当にありがとうございます!」ソニアは恥ずかしそうに小さな天使に微笑んだ。「うむ。私はソニアの泣く姿は見たくない。今みたいに笑っていた方が可愛いぞ」ジェラルド三世はそう言ってソニアの頬にキスをした。「きゃーーージェラルド三世様!、何と可愛らしいお言葉!!ソニアは天使様に夢中だわ!!」ソニアはジェラルド三世の言葉にキュンとした。小さな天使は本物の天使だわ!ソニアはジェラルド三世を抱きしめた。
ある日、ソニアはお城の庭園を一人で散歩していた。広い庭園中央付近ではお茶会が開催されておりジェラルド三世と同じくらいの小さな子供達も親の貴族に連れられお茶会に参加していた。
その中にはジェラルド三世の姿もあった。ソニアの小さな天使は遠くから見てもすぐにわかる。金色の髪がキラキラ輝き本物の天使のように見える。その姿があまりに可愛く庭園の芝の座ってジェラルド三世の姿を眺めていた。ジェラルド三世は小さいながらにその美貌で小さな令嬢たちの心を掴んでいる。やっぱりあの美貌はいつの時代もモテるよね。ソニアは幼い令嬢達の激しいバトルを見て楽しんでいた。皆ジェラルド三世の近くに行きたくて両隣を取りあっていた。またその様子が大人顔負けのバトルで中々面白くソニアは笑っていた。「私のジェラルドさまよ!」「なによあんたなんてまだ一人でベットにいけない子供のくせに!」ソニアはその会話がツボにハマった。
「アハハハ!!かわいい」ソニアは芝生に平伏して大笑いしていた。笑っちゃう!子供が子供にクセにって!!涙が出るほど笑って顔を上げると小さな天使がソニアを見ていた。「まあジェラルド三世様いつのまに?」ソニアの愛する小さな天使が目の前にいる。目を丸くしジェラルド三世を見つめた。「ソニアが見えたから」そう言ってソニアに手を差し伸べた。ソニアはその小さな手の上に自分の手をそっと乗せて微笑んだ。来てくれたんだ。可愛い私の天使。ジェラルド三世はソニアの手の甲にキスをした。その時の顔がジェラルドに見えた。ソニアは一瞬心臓が止まりそうになった。ジェラルドがいる?!驚くソニアを不思議そうに見上げたジェラルド三世は言った。
「良い機会だからソニアを紹介する。一緒に行こう」ジェラルド三世はソニアの手を握り歩き始めた。ソニアは子供達のお茶会に紛れ込んでしまって内心焦っていた。「ジェラルド三世様、私は大人ですからこの場にそぐわないですわ」小さな天使に声をかけるが無視され逆に手をぎゅっと握られてしまった。かまうことなくジェラルド三世はソニアをお茶会に連れて行きとんでもない事を言った。「皆に紹介する、私の愛するソニアだ」そう言ってソニアを子供達に堂々と紹介した。ソニアは驚き馬を読んで「ジェラルド三世様は本当に冗談がお上手で可愛いわ」とフォローした。しかしすかさずジェラルド三世は言った。「冗談では無い。私は本気だ」
それを聞いた小さな令嬢達は大泣きし始め会場は大変な騒ぎになった。この事件をきっかけにソニアは子供の令嬢から嫌われてしまった。ジェラルド三世全く悪びれず言った。「令嬢から嫌われても私がソニアを愛しているから良いではないか」そして皇帝はこの騒ぎを聞いて笑いながら言った。「ソニア様、しつこいようですがジェラルドは幼いながらにソニア様を本気で愛しております。大目に見てあげてください。アハハハ!」ソニアは戸惑い困ってしまった。そんなソニアを横目に小さな天使は何も気にしていない。ソニアもジェラルド三世の堂々とした姿を見て諦めた。もう少し大きくなったらきっと年の近い令嬢を好きになるだろうからいいか!好きにさせよう!
それから一年、小さな天使ジェラルド三世は十歳になった。
見た目はまだまだ可愛い子供。だけど将来の皇帝として勉強や剣など忙しい日々を送っていた。私は四百二十歳になった。未だにジェラルドを忘れられず城に飾ってある肖像画の前で数時間過ごしてしまうほどジェラルドが恋しい日々を送っていた。
ソニアが頻繁にジェラルドの肖像画の前に来るのでいつからかソファーが備え付けられた。ソニアはそこに座りジェラルドを眺めながら本を読んだりうたた寝をしたり自由に過ごしていた。
小さな天使は時間があるとソニアのところに現れ隣に座りソニアの手を握りしめて同じように本を読んだりうたた寝をしたりして過ごしていた。小さな天使のお陰でソニアは心が癒された。穏やかで優しい日々を送っていた。