第二部 四百十九年の孤独 ジェラルド三世の時代
随分長い間眠っていたようだ。
目が覚めると若いメイドが私を見て腰を抜かした。そんなに驚く?慌てて立とうとするメイドに話しかけた。「あの、アニエスは?」メイドは姿勢を正し緊張気味に答えた。「ソ、ソニア様、アニエス様のことは存じ上げませんが、すぐに皇帝にお知らせいたしますのでお待ちください」「皇帝?皇帝ってジェラルド?」ソニアは嫌な予感がした。アニエスを知らない?ならばこの国の皇帝の名はわかるだろう。お願いジェラルドの時代でありますように。ソニアは祈るような気持ちで返事を待った。「え?ジェラルド三世様のことでしょうか?」メイドは首を傾け言った。「ジェラルド、、三世。今ジェラルドは三世なの?」ソニアは意味がわからなかった。三世?「はい、ジェラルド三世様はまだ九歳ですが、、、」そう言って頭を下げメイドは急いで部屋を出て行った。
ジェラルド三世?九歳?ジェラルドは名前の後にそんな名称がなかった。要するにあのジェラルドは初代ジェラルドで、今は三世?もうジェラルドは居ない時代になってしまったの?ソニアはもう二度とジェラルドに会えない現実に直面した。嘘?誰か嘘だと言って?ジェラルドとちゃんとお別れもしていないのに。もう二度と会えないなど信じたくない!ソニアは直面した現実に泣き出した。あ、あんな別れ方をして十分に想いも伝えられず、ジェラルドとの約束も半分しか守れず私は眠りについてしまった。「ジェラルド!ジェラルド!」ソニアはジェラルドの名前を呼びながら泣き続けた。ふと気がつくと涙が出ている。「え!泣けるんだ!!」シーツの上に落ちた涙の跡を見つめた。悲しいけれど涙を流せる事が嬉しかった。涙に濡れた手を見ると眠る時にはつけていなかった指輪が左手の薬指にはめられている。「これは?」ソニアはその指輪を外し眺めた。「内側に何か書いてある?」ソニアは指輪を見つめた。そこには「全ての愛をソニアに捧げる ジェラルド」と書いてあった。嘘?ジェラルドが私を愛してくれた?全ての愛を私に、、ソニアはその指輪を握りしめて泣いた。「ジェラルドに会いたい、ジェラルドに会いたかった」自分でもコントロールできないほどの感情が湧き出た「ジェラルド!ジェラルド!会いたい!ジェラルドに会いたい!!」ソニアはジェラルドの名を呼び続けた。
「私を呼んだかソニア」どこからか声がした。え?誰?誰かいるの?ソニアはピタっと泣き止み周りをキョロキョロとみた。「誰もいない?」ソニアはそら耳かと思い改めて泣きを始めようと両手で顔覆った。「ソニア、私はここだ」ソニアは顔を覆った両手を開き声の方を見た。ベットの脇に金色の髪に白い肌、青い瞳のまるでお人形のような少年がソニアを見ていた。その少年はジェラルドに似ている。ジェラルドの幼い頃はこんな感じかな?と思うような天使のような可愛らしい少年だ。「坊やどうしたの?」ソニアは目をぱちくりさせながら目の前の天使に声をかけた。「ソニアが呼んだじゃないか」その天使はソニアを見つめながら言った。「えっと、あなたはだあれ?」ソニア少し戸惑いながら聞いた。「私はジェラルド三世だ。あなたはソニア、三百年ぶりに目覚めたソニアだ」天使が言った。「あなたがジェラルド三世?私そんなに寝ていたの?!全てが驚きだわ!!」ソニアは混乱した。その時先程のメイドと皇帝らしき人が部屋に現れた「祈りの乙女ソニア様、三百年ぶりのお目覚めですね。その間は我が国をお守りくださり本当に感謝を申し上げます。初代ジェラルド陛下よりソニア様を守り丁重に、大切にするよう代々言い伝えられ本日までお守り申し上げておりました。どうぞ今後もここに留まってくださいますようお願い申し上げます。」皇帝はソニアに頭を下げた。ソニアはポカンと皇帝を見ている。皇帝はソニアの枕元に移動した小さな天使を見て言った「ハハハ、ジェラルドは既にここにいたのか。流石だな。あ、ソニア様、我が息子のジェラルド三世はソニア様を幼いながら愛しております。どうぞ可愛がってくださいますようお願い申し上げます」そう言って笑いながら部屋を出て行った。ソニアは唖然とし天使を見た。天使は嬉しそうに微笑みソニアを見ている。なんか、可愛い。ソニアは目の前にいる天使に声をかけた。「ジェラルド三世様?お友達になって下さるの?」その言葉を聞いジェラルド三世は口を尖らせ言った。「私は友達にはならない。なるならソニアの恋人だ」ソニアはその言葉を聞き笑い始めた。「アハハハ!!小さなジェラルド様は可愛いわ!!!」ソニアは幼いジェラルド三世の頭を撫でた。ジェラルド三世は怒りながら言った。「ソニア、子供扱いしないでくれ、私は本気なのだ」そういいながら小さな体でソニアを抱きしめてきた。うわぁ!可愛い!!!!!この小さなジェラルド三世はジェラルドにそっくりで幼いジェラルドを見ているようで癒されるわ!私を愛しているって!可愛い!年齢的に大人に憧れるのね。愛しすぎるわ!ソニア自分に抱きつく小さな天使をそっと抱きしめた。
長い眠りから覚醒したソニアは特に何かをする訳では無く、毎日のんびり好きに過ごしていた。これといって社交の場に出ることを強制されることもなく、自由な生活を送っていた。それは初代ジェラルドがソニアが目覚めたら全てソニアの思うがままにさせるようにと書き残してくれたお陰だ。ジェラルドは自分が居なくなった後もずっとソニアを守ってくれていた。ソニアはジェラルドの本当の気持ちを三百年後に知った。でもどれだけ泣いてももうジェラルドに会うことが出来ない。ソニアは毎日ジェラルドを思い出し泣いていた。そんな時何処からともなく小さな天使が現れ小さな手でソニアを抱きしめた。「小さな天使ジェラルド三世様、ありがとうございます。私は大人なのに泣き虫ですね」ソニア小さな天使を見て微笑んだ。「ソニア、大人子供関係がない、悲しい時や寂しい時は泣いて良いのだ。私がいつもソニアを慰めるから泣いて良いぞ」幼いジェラルド三世はそう言って小さな手でソニアの頭を撫でる。そんなジェラルド三世の暖かさにソニアは癒された。その度にソニアは小さな天使を抱き上げ「可愛い!私の天使!!」と言って頭にキスをする。「ソニア、子供扱いはやめてくれ!」ジェラルド三世を子供扱いするたびにソニアは怒られるがそれすら愛しいと思うソニアだった。