百一年の孤独 第一部 最終話 永遠の別れ
あれからずっとソニアは眠り続けている。ソニアが眠りについた翌日ジェラルドはルアーナと婚約をした。ジェラルドはソニアを失い自分の感情を殺した。表面ではルアーナを大切にし、笑顔で国民と触れ合い良い皇帝であり続けた。けれどジェラルドの心はソニアと共にあの日封印された。喜びも悲しみもあの日以来感じる事ができなくなった。
そんな日々の中でもジェラルドは一日に一度必ずソニアの元に行きソニアに話しかけていた。ソニアが起きていた時には伝えられなかった思いを眠り続けるソニアに伝えていた。その時だけはジェラルドは心を取り戻しその全てをソニアに注ぎ続けた。
ソニア、お前を初めて見た時から恋をしていたんだ。眠り続けるその姿があまりにも美しく俺は一瞬で心を奪われた。こんなに美しい人がこの洞窟で一人百一年も眠り続けていたとは信じられなかった。ソニアは眠りながら泣いていた。その姿を見てこの美しい人を起こし自分がその涙を止めたい、その涙を喜びの笑顔に変えたい、ただその為にソニアを起こしたんだ。あの時からずっとずっとソニアだけを見ていた。だけど俺には将来を約束したルアーナがいる。だからソニアに自分の想いを伝える事が出来なかった。
だけどソニア、出会ってまもない頃俺を追いかけて嘘の愛情表現を毎回、会うたびに伝えてくれた。ソニアの気持ちが嘘だと分かっていても嬉しかった。明るく笑うソニアを見るたびにこんな俺でもあなたを笑顔に出来る喜びを感じていたんだ。生き生きと明るく生きるあなたは美しく、あまりに眩しくて何度も何度も俺の心を掴んで離さなかった。俺の側にいて欲しいと思う気持ちを止められなかった。それでも俺にはルアーナがいて、皇帝で、立場上ルアーナのためにソニアを起こしたこの世界の現実の中でどうして良いのかわからず、何度も自分の気持ちを止めようとした。だけどあなたはいつのまにか俺を愛し真っ直ぐな瞳で俺だけを見つめてくれた。どれだけ嬉しかったか。どれだけあなたを抱きしめたかったか。
全てを捨てて二人で逃げたいとソニアを散歩に誘い馬車に乗り込んだ。だが途中あの美しく静かなススキの丘を見た時皇帝の俺はフローエン帝国を捨てる事ができないと悟った。なぜならソニアはフローエン帝国の安泰の為に生贄になったのだから。だから今は逃げる事は出来ないと、あの場所で覚悟を決めた。俺の思惑を知らず無邪気にススキで遊ぶソニアが愛しくて仕方がなかった。だけどソニアを選ぶ事ができない自分をどれだけ責めたか。ソニアが眠りについてから俺は、俺の心は死んでしまった。ソニアを愛しているとあなたに伝えたかった。
ジェラルドは眠るソニアにキスをし部屋を後にした。
それから数ヶ月後、ジェラルドとルアーナの結婚式を明後日に控えた夜ジェラルドは結婚式に参加するために来たレオナルドと共にソニアの眠る部屋にいた。レオナルドは眠り続けるソニアの手をとってその手にキスをしジェラルドを責めた。「ジェラルド、貴様ソニア、、嬢がどれだけお前を愛していたかわかっていたのか?!倒れる寸前までなった体を起こし,お前に心配をかけたくないと何度も私に言ったソニアをなぜ大切に出来なかったのだ!!なぜお前はルアーナを選んだ?ソニアを愛しながらなぜそうしたのだ!」レオナルドはジェラルドを許せなかった。「なぜソニアをこんな目にあわせたのだ!!俺はお前を許せそうに無い。国は関係ない、友としてお前を許せないんだ!」ジェラルドは答える事が出来なかった。レオナルドの言う通り、全てジェラルドが選んだ結果が今なのだ。
開放していたテラスから風が吹き込みススキの穂が部屋に舞い散った。二人は驚いてその光景を見ていた。「ああ、わかったよ。ソニア嬢、ジェラルドを責めるなって事だな。わかったから許せ。」レオナルドはソニアに向かって言った。ジェラルドはレオナルドを見ている。「ジェラルドすまない、ソニア嬢に怒られたな、彼女はジェラルドとススキの丘でデートをしその穂が空に舞い上がる景色をお前と見れた事が宝で幸せだと言っていた。ソニアは幸せだったんだ。そう言いたかったんだ」
レオナルドが帰った後ジェラルドは眠るソニアを抱きしめていた。ソニア、と呼べば起きそうなソニアはとても美しくジェラルドは何度もソニアと呼び続けた。「ソニア、俺は明日ルアーナと結婚する。あの日、満月の夜ソニアを呼び出したのはソニアに俺の全てを捧げたかったからなんだ。ソニアに血の誓いをしたかった。何度生まれ変わってもあなただけを愛し続ける魂の誓いを結びたかった。だけど神は俺にそれを許さなかった。ソニア、あの時の事をどれだけ後悔しても俺は結局国の為にルアーナを選んだのだ。ソニアはこの国のために眠り続け、俺はこの国のために愛のない結婚をする。次に生まれ変わるなら自由な世界に生まれ変わりたい。次はあなたが俺を愛さなくても俺はあなたを愛し、その気持ちを伝え続ける。あのススキの丘で二人で手を繋いで歩いた時間は俺にとっても永遠の宝で本当に幸せな時間だった。ソニア俺はずっと何一つ変わらず死ぬまでソニアだけを愛しているよ。俺の方が先におじいちゃんになるだろうし、先に死ぬだろう。ソニアが起きた時に寂しくないようになるべく早くお前の元に戻ってくるから待っていてくれ。必ずソニアを幸せにするから。月を見るたびにあの約束を思い出すから、ソニアも忘れないでくれ。また明日も明後日も死ぬまで毎日会いに来る。