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ススキの丘


「ソニア出かけたい所がある。少し歩けるか?」ジェラルドが聞いた。「大丈夫!ジェラルドとデートだわ!」と冗談を言った。ジェラルドは元気なソニアを見て頷きそのままソニアの手を取り部屋を出た。ジェラルドは待機させてあった馬車に乗り込んだ。どこかに行くのかしら?ソニアとジェラルドは向かい合って乗った。だソニアは目の前のジェラルドを見ることが出来ず黙ってずっと窓の外を眺めていた。ジェラルドを意識してしまう。ソニアは一体どこに行くのか検討もつかない。でも一緒に居られる今を幸せだと実感している。嬉しい。ソニアは窓の外を眺めながら喜びに微笑んでいた。「ソニア楽しそうに外を見てるけど何か見えるのか?」ジェラルドがソニアの隣に座っり顔を近づけて来た。ジェラルドの横顔は彫刻の作品のように美しく間近に見たソニアは不意に緊張した。「ソニア何を見て笑っていたんだ?」そんなソニアに構うことなくジェラルドは優しい瞳でソニアを見つめる。ジェラルドの瞳に私が映っている。私を見つめるジェラルドの瞳。幸せそうな自分の顔が見えた。ジェラルドの息遣いがわかるほどの至近距離にソニアは耐えられなくなった。「ジェラルド、そんなに近くにいたら襲っちゃうからだめだよ!」ソニアは自分の気持ちを隠すように両手でジェラルドを押した。「ふむ、ソニアに襲われるのも悪くは無いな」ジェラルドが近づく。ソニアは緊張で体が硬くなった。近い!このままジェラルドとキスが出来そう。大好き、ジェラルド大好きです!「ジェラルドだい、大問題になるから!!」私は危うく大好きだと言いそうになったの誤魔化した。「大問題か、確かに、、」ジェラルドはそう言って元の場所に戻った。はぁ、ソニアは小さく息を吐きジェラルドの言葉を少し残念に思った。だが出来るだけ何も望まないようにしようと心に決めた。


 郊外にある広い丘の上で馬車が止まった。二人は馬車から降りた。目の前に一面のススキが見える。そのススキは緩やかな風に優しく揺れている。その様子は波に揺れる穏やかな海のようだ。少し強い風が吹きすすきの穂が一斉に空に舞い上がった。ソニアはその幻想的な様子に目を輝かせジェラルドを見た。ジェラルドも優しくソニアを見つめた。その丘は誰もいない幻想的な場所だった。ソニアは空に登ってゆくすすきの穂を見ていた。もう一度ジェラルドの方を見るとジェラルドは優しく頷いた。ジェラルドがここに連れて来てくれたことが嬉しくて、共にこの幻想的な風景を見ることができた事が嬉しくて、でもどこか切なく不思議な感情になった。ソニアはゆっくりとススキの海に入って行った。風に揺れるすすきの穂を手で触りながら歩くと触った場所からススキの穂が舞い上がる。まるでススキの穂が嬉しそうに旅立って行くように見える。その様子が美しくて楽しくてソニアは夢中になった。両手を広げて後ろ向きに歩きながら手から飛び立ってゆくススキの穂。一つ一つが生きているように思える。目の前にあるススキの穂を両手でそっと包み顔の前に持って行きフーっと息を吹きかけた。手の上から一斉に舞い上がり自由に飛んでゆくススキの穂。この手から離れたこのススキ達はどこにゆくのだろう。ふとそんな事を考え少し寂しくなった。空になって両手を見つめ握りしめた。きっと私はその場所に行くことは出来ない。ソニアは急に寂しくなり不安になりジェラルドのところに戻ろうと顔を上げた。その先にジェラルドがいた。「ソニア、なぜそんな悲しそうな顔をしているんだ?」ジェラルドはそっと手を伸ばしソニアの頬に触れた。優しいジェラルド。私の側にいてと叫びたい。私を愛して下さいと縋りつきたい。「こ、こんな素敵な風景をジェラルドに見せてもらってルアーナ様に申し訳ないと思って、、」咄嗟についた嘘だがなぜこんな事を言ったのか分からない。言わなきゃよかった。「ソニア、ルアーナは令嬢だからこんな所は歩いたことがない。それに整備された庭園が好きだから大丈夫だ」ジェラルドはそう言って頬から手を離した。あ、手を離された。ソニアの胸がチクリと痛んだ。「えー!私も百一年前は令嬢だったと思うよ?」精一杯明るく笑いながらジェラルドに言った。本当は笑えない。けど笑うしか無い。それが正解だから。「ハハハ、それは失礼」ジェラルドは笑いながらソニアに手を差し伸べた。ソニアはそっとジェラルドの手に自分の手を置き、ジェラルドはその手を握った。二人は手を繋ぎススキの中をゆっくり歩いた。ジェラルドがソニアをエスコートするように半歩先を歩く。ススキの穂がジェラルドに触れるたびに広い空に舞い上がる。その美しい様子を見つめながら永遠にこの時間が続いて欲しいと願った。ずっとこんな日々が続いて欲しい。そばにいて欲しい、こうしてずっとずっと手を繋いでいて欲しい。だけど、やっぱりジェラルドが幸せであれば私は消えてもいい。その為に今ここにいてジェラルドから幸せをもらっているのだから彼の為なら私はなんでも出来ると思った。また深い眠りについたとしても、起きた時に誰一人いなくても私はこの時間を思い出して自分の宿命を全うすると覚悟のようなものができた。「ジェラルド、ありがとうございます!こんな素敵な景色を見せてもらえて本当に嬉しいわ!長生き?して来たけどこの景色は初めて見たわ!」そう言って笑った。ジェラルドは返事をするかわりに繋いだ手を強く握り自分の指をソニアの指に絡めいわゆる恋人繋ぎをした。そんなジェラルドにソニアは少し戸惑った。ジェラルドは戸惑うソニアを見て「フフフ」と笑いグイっとその手を引っ張り歩き出した。馬車まで戻った二人は繋いだ手を離し馬車に乗り込んだ。ソニアはこの夢のような時間の余韻に浸っていた。嬉しい。本当に幸せ。「ソニア、、」馬車の中でジェラルドが話しかけてきた。「何?ジェラルド」ソニアはジェラルドを見た。「ソニア、俺は一ヶ月後にルアーナと婚約する。その三ヶ月後に結婚する事が決まった。」 ジェラルドは淡々とした口調でソニアに言った。ソニアは先ほどまでの幸せな気持ちが一瞬で消えた。突然のジェラルドの言葉に衝撃受けたが、動揺する訳にいかない。悲しみを飲み込み精一杯の笑顔を浮かべ明るく言った「わ!驚いた!!私が寝ている間に色々と決まったのね。ジェラルドのファンとしては残念だけど推しの幸せは自分の幸せ!ジェラルド、おめでとう!!」そう言って揺れる馬車の中で立ちあがりジェラルドの頬にキスをした。「ソニア、」ジェラルドは何か言いそうになったがソニアはそれ以上どんな言葉も聞きたくない。言葉をかぶせるように話し始めた。「ジェラルド、私は寝ているところ起こされて腹が立ったけど、まあ、一応自分の役目は果たせてよかったと思っているよ。でもこれは高くつきますからね。」そう言ってニヤリと笑い「何を請求しようかなぁ」と言いながらジェラルドから視線を外し考えるふりをして行きと同じように窓の外を眺めた。少しでも気を抜いたら思いもよらない感情が溢れ出そう。心を殺し嬉しそうな表情を浮かべ、「何をもらおうかなぁ」と言いながら自分の感情を抑える事に集中した。苦しくて息が詰まりそう。胸が痛い。とにかく早く一人になりたい。冷静になって心を整えてよかったね!と心から言えるようになりたい。ソニアはそれだけを考えた。馬車が城に着き、ジェラルドにお礼を伝えソニアはメイドと一緒に部屋に戻った。


 

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