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会津遊一 ホラー短編集

一念の弾丸

作者: 会津遊一
掲載日:2009/09/29

「娘から手を放せっ!」


と、警察官が叫んだ。


その目の前には、凶悪な殺人犯が一人。


「近づくんじゃねーぞ、ポリ公がっ! お前の娘がどうなっても良いのかっ!」


「父さんっ!」


そして殺人犯の腕の中に、人質として警察官の娘が捕まっていた。


しかも、背後からナイフを突き立てられている。


これでは迂闊うかつに逮捕する事は出来ない。


無理をすれば、娘の命が危険になる。


 だが、だからといって逃がす事も出来ない。


この殺人犯は、別件で五人も殺しているのだ。


もし取り逃がしでもしたら、もっと多くの人が殺されてしまうだろう。


 殺人犯が威嚇いかくするように吠えた。


「お前の娘が殺されたくなかったら、俺から離れろやっ! どかねぇーと、また殺すぞっ! どーせ捕まったら、一生ムショ暮らしなんだからな」


へらへらと。


殺人犯は笑っていた。


 その時。


銃声が響く。


空に向かって、警察官が威嚇発砲いかくはっぽうしたのだ。


 だが、殺人犯は怯んではいない。


いや、それどころか、怒りで目が赤黒く変色していた。


「ビビらせやがって、クソ警官がっ! 本当に、娘の命がいらねぇーっていうのかっ!」


発砲した警察官が、悲痛な顔に成る。


「娘を返せっ! 私のたった一人の娘なんだ。放さないと、お前を殺すぞっ!」


「お父さん、助けてっ!」


人質になっている娘は涙を流し、体を小刻みに震わせていた。


「俺を殺す? 面白い」


 殺人犯は、にやりと笑い。


刺した。


背後から七センチほどの刃が、娘の心臓を一刺。


娘は、ナイフが体に突き刺さったまま、倒れ込んだ。


ぴくんぴくんと、陸に打ち上げられた魚のように体を痙攣させている。


 そんな中。


警察官が、発砲した。


どうしても、許せなかったのだ。


娘を刺したというのに。


ヘラヘラと笑い続けている。


あの男の顔を、弾丸で打ち抜いてやりたかったのだ。


殺してやりたい、殺して、殺す。


警察官の顔が、般若のように歪む。


殺人犯に向かって、殺意と怨念の弾丸が飛び出す。


 だが。


父親の執念も空しく。


弾丸は、何処かへ飛んで行ってしまったのだ。


怒りで手が震えるあまり、狙いがズレてしまったのだ。


「くそぉっ!」


 警察官が、もう一度、発砲しようと拳銃の引き金を引いた時。


そこに。


駆け付けた別の警察官に、殺人犯は逮捕されてしまったのだ。


「あははは、馬鹿な奴だ。娘が殺されたっていうのに、やり返す事も出来ないってうのかよ」


と、殺人犯はパトカーに乗せられるまで、へらへらと笑い続けていた。


 取り残されたのは。


冷たくなっていく娘の死体。


それに抱きつき、嗚咽おえつらす警察官。


現場を保持している人達だけだった。






 撃たれた弾丸は飛び続け、近くの公園に落下した。


「マーマー、何か落ちているよ」


それを子供が拾い上げ、母親に見せた。


「そんな汚い物は拾わないで、ゴミ箱に捨てなさい」


「はーい」


と、公衆のゴミ箱に入れられた。


その中味は、ゴミ収集車に持って行かれ、分別場に運ばれた。


人間の手によって、可燃、不燃、プラスチック、カンと瓶、発泡スチロールと分類される。


分けられた後は、個別に圧縮され、処理施設にトラックで運ばれる事となる。


 その道中。


中国人の2人組に襲われ、一台のトラックが盗まれてしまったのだ。


 そして。


トラックは中東に売られてしまい。


トラックに積まれていた荷物は北海道を経由して、ロシアに流れ着いていた。


そこで荷物は溶かされ、固まりとなり。


加工され、輸入雑貨と装飾品が作られた。


 出来上がった品は、直ぐに中国の義烏へ輸送されている。


義烏は世界でも有数の卸市場だ。


ありとあらゆる国の人間が訪れ、ありとあらゆる物が取り扱われている。


 だが。


この後姿勢に、装飾品など全く売れなかった。


このままではゴミ市場に流されるという時。


ある日本の企業が装飾品を買い占めたのであった。




 


 その日。


刑務所では、特別な料理が出されていた。


ステーキだ。


加工肉の安物だったが、脂気のない囚人達には御馳走だった。


一部屋、五名。


いそいそと全員が席に着き、号令してから食事が始まった。


 ふと。


本来、会話は禁止されているのだが。


へらへらと、笑っている男が呟いた。


「なんか、小綺麗なナイフだな」


何時ものプラスチックのフォークやナイフではない。


装飾されている鉄か鉛製の食器に見えた。


「なんでも、百円ショップで大量に買ってきたらしいぜ」


と、誰かが答えた。


「ふーん、こんなもんに税金使うとはね」


へらへらと笑っていた男がステーキを食べた。


 瞬間。


何故だが、尖端が口内に刺さってしまう。


「いちちち」


慌ててフォークを吐き出した時、置いてあったナイフに手が当たった。


その反動で飛んでしまったナイフが、サクッと眼球に突き刺さる。


「うぎゃぁぁぁぁああっ!」


あまりの痛さに、へらへらと笑っていた男が倒れ込む。


痛い、痛いと喚き。


百足の頭が釘を刺された時のように、ばたばたと足を動かし続けている。


その時、テーブルを蹴飛ばし、衝撃でひっくり返してしまった。


だが、反対側に倒れる事はなく。


何故だか食卓の全ての物が、男にのし掛かってきたのだ。


「ひっ!」


男は息を飲んだ。


慌てて逃げようとするも、既に遅い。


いや、逃がさない、というようにとテーブルが倒れたのだった。


 その後。


駆け付けてきた監視員が見たものは。


ハリネズミのように、10本のフォークとナイフが突き刺さっている男の死体であった。


普通ではあり得ない死に方だけに、監視員も不思議な事だと首を傾げていた。




それは、警察官の娘が殺された日から。


丁度、イチネン目の事故であった。

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 余計な言葉がなく、全体的にまとまっていて良かったと思います。 [気になる点] 冒頭の警察官の娘が殺されるシーンを、もう少し整理するとラストが映えてもっとよくなると思います。 これは余談で…
[良い点] 色々ありました。あえて一つ挙げるなら最後のダジャレで(笑) [気になる点] 一つだけ誤字報告です。『この後姿勢に、装飾品など全く売れなかった』の後姿勢は、おそらく『御時世』ですよね。直して…
[良い点] 「因果応報」をそのまま小説にするという大胆な発想が素晴らしいと感じました。自分では決して思い付かないものだけに、筆者さんの才能が羨ましいです(笑) [気になる点] 「意外性」があまり無か…
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