《冬枯れた花》
《冬枯れた花》
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西の大陸。雪原地帯。
過去の戦いの戦地となったそこは、大幅に磁場が乱れ寒暖が激しくなる。
昼間は赤茶の大地で生きる茶色の草木や奇っ怪に育つ多肉質の植物が目立つ。
そんな乾燥した自然の中で異様さを放つのは、骨塚。
散らばる骨は明らかに人間のもので、先日の蟲の塔と比べれば規模が小さいが。
いくつもの地点にその骨塚は存在していた。
数メートルはある闘牛の頭部、その額に人の顔。
長い人骨、腐敗した色とりどりの肉肌をした幾多の腕が、
蜘蛛や蟹の様に脚として機能し身体を支えていた。
人の顔が動けば、連動して闘牛の前に突き出た口が動く。
『人間、いや、オウガか?』
珍しげに、刀を構え始めるジークをみた。
「・・・・・・」
彼女の殺意を察し、息を荒くし始める闘牛の名は《ラプラス》。
『まさか、ここまで美しく人間を保つとはな』
皮肉気味に、吐き捨てる。
前に伸びた脚腕の先が纏う腐肉を裂いて展開。
細く鋭利な鋏として正体をあらわす。
辺りに飛び散る肉片を易々とかわし、間合いを保ちながら、走り出す。
闘牛の頭部にある人の顔が這い出すように首から肩、腕、胴を見せた。
両腕・・・・・・指先から、粘りけを持った糸を噴出。
自在に糸の挙動を変えながら、彼女を追尾し、鋏が届く範囲まで誘導。
長い腕と各部の関節によって、易々と彼女はその餌食に・・・・・・。
ラプラスの予想は、外れた。
『悪いね』
ラプラスの人間の上半身部位の背後には、エゾリーがいた。
彼の腕が変容し、スライム状となって、ラプラスの視界を覆い隠す。
『巨体によって出来た鈍さと、視界の不自由さを補う為の人間部分』
彼がそう囁く中、ジークの一刀が鋏を切り落とす。
そしてまた、別の鋏を、脚を、次々と。
切断された部位の再生が始まる中、エゾリーは跳躍し、離脱。
彼と入れ替わる様に、ジークがラプラスの胴体へ襲撃。
跳躍、飛び込む。落下の勢いをのせ、鋭利な刃で、両断。
さらに追撃し、横へ薙ぎ払えば、バラバラとなった。
『これで半分か』
アヴラムが上空で眺めながら、ジーク達に群がる増援を火球を飛ばし払う。
この様な戦いが繰り返され、とうとう半日が過ぎた頃、
アヴラムから全滅の報告を聞かされた。
もしも人工衛星が活きていれば、
その大陸で点々と灯る光を正確に観測しただろう。
『へえっくしゅ・・・・・・』
エゾリーがくしゃみを始めた。
『そろそろ夜だ、早くしないと凍え死ぬな』
寒暖が激しくなったこの地帯は、昼間は猛暑で、夜になれば凍死する程寒くなる。
エゾリーの濡れた長い髪も、僅かに凍っていた。
「分かった」
アヴラムの背にのるジークとエゾリー。
エゾリーはアブラムの体温の高さに、震えから安堵した顔に変わった。
彼らが大陸を去るなか、アヴラムやジークの炎もまた消えていく。
そして、徐々に完全な夜となってた。
珍しく雨雲が夜空を覆い、その寒さから降り注ぐ雨は雪となって、
茶色の砂原や赤茶の岩地を白く白く埋め尽くした。
その雪が朝となって溶け始めれば、僅かな間だが、大きな湖となり、
人々の骨や、化け物の死骸の積み重なりも、その水に飲み込まれていくのだろう。
ラプラスの粘糸によって、砂嵐に耐えられたそのモニュメントは、
水によって洗い流され、地上に縛られた人々の骨は、
ようやく、母なる大地へと帰還したのかも知れない。
2018/06/28 02:06 初稿