《涅槃の灰燼》
《涅槃の灰燼》
山奥の渓流。
小さな滝と勢いのある川によって削れた岩場でジーク達は一休みしていた。
『あ~~~~~~~~、汚染されてない川は気持ちが良いねえ』
エゾリーは滝の濁流で白くなった水に流されることなく、肩まで浸かる。
『悪かったな』
広葉の雑木の陰に隠れた漆黒の龍アヴラムは返した。
「アヴラムも飲む?」
エゾリーよりも上流で、小さなカップに汲んだ水を持ってきたジーク。
『ああ、ありがとう』
喉は渇いてはいなかったが、素直な口調でアヴラムは長い舌を出した。
薄紅の花を咲かせた木の枝が、アヴラムの首の動きによって僅かに揺れる。
『なかなか冷たいな』
『耳を澄まして水の流れを聴きながら、ヒンヤリとした水を飲む、イイネえ』
水浴びを終え、戻ってきたエゾリー。大きく息を吐き、ご満悦の様子。
『例えば、滝の幅が細いとその流れる水の量から激しい音になるし』
その逆になれば、緩やかな音---せせらぎに心を癒やす。
「・・・・・・」
『ジークには分からないだろうけど、アヴラムには分かるんじゃないかな?』
『分からなくもないが、一言余計だぞ』
ジークは気にしてはいない様子だが、内心どう思っているか。
『ごめんごめん』
「鳥のさえずりもあれば、いいのに」
『昔なら、鳥も居たんだろうけどな』
水辺近くの苔や藻は枯れることを知らないのか、鮮やかな緑のまま育ち、
岩に張り付いていた。
『植物と水は無事で、動物がいないってのはなかなかシュールだね』
この場にいるのは、人間ではなくなった者達だ。
例えるならば、妖怪エゾリーと龍アヴラムと、ジークという謎の女。
「魚はいなかったの?」
『ああ、居なかった。けど、多分僕の同族が繁殖に使う可能性も』
「じゃあ、XXX」
『わわわわわわわっわ、悪かった!言わない言わない!』
いつもの二人の騒ぎを無視して、アブラムは首をまわし、見渡した。
季節が変わればここも違う顔を見せるのだろう。
鮮やかな緑から、紅くなった葉を落としていく。
時には木の実と共に、上流から下流、そして陸や、海へと流れていく。
その小さな命が流れに身を任せ、通り過ぎていく美しい自然の光景を想像した。
何故、自身がそのような事を考えたのか、彼は少し自嘲気味な顔で考える。
だが、答えは見つからず。いまは記憶の奥に留めることにした。
初稿2018/06/26 06:16