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Siegavram  作者: 宮本シグレ(潮山)
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《狂える羊》


 《狂える羊》


******



 枯れた心を持ったジークの声。

 アヴラムも、彼女の病みは、分からなくもない。

 戦う人間ほど、その癒えにくい重圧からやつれていく。

 彼女は己と出会うまで、何年も一人で血を浴びた。

 今、こうして最低限のコミュニケーションが出来る事さえ奇跡だろう。

 『ジーク、お前は、人間だった頃のことを思い出せるか?』

 『まあ、未練があって、こうして化け物として生まれ変わってるんだろうけどさ』

 アヴラムがきくと、エゾリーが横やりをいれてくる。

 「・・・・・・あまり、話したくはない」

 『・・・・・・だろうな』

 『ま、皆そうでしょ』

 エゾリーの結論にアヴラムも皮肉な思いはあった。

 過去の自分を引きずって生きている者はいるだろうか?

 己の過去を知る人はいないだろう。

 皆、過去の執着から人であることを辞めた瞬間に、

 人としての過去を捨てていくことを選んでしまった。

 人間らしい生活をしている者が多くても、

 過去の自分が背負っていた多くの概念を捨てている。

 どんな知り合いがいたのか、親はどうだったのか、恋人はどんな種族になったのか、

 そんな過去から持ち込まれる全てが、徐々に生まれ変わりで除外されていく。

 生きていたいから生まれ変われば、結局、人間ではない。

 そのしがらみから、自身の都合の良いように、記憶を奥底へとしまう。

 アヴラムもどこか、過去の自分に冷めていた。

 戻る術がないからこその、開き直りだ。

 夜、ジークがボロ布を纏いながらキャンプの端で眠る中。

 エゾリーはアヴラムに話をした。

 『アヴラムは何故、彼女の味方をしてるんだよ?』

 『・・・・・・前にも話しただろう』

 『違うね、僕が聞きたいのは何故、彼女の味方をしているのか、そのものだよ』

 『俺がジークの味方をするのに、理由がいるのか』

 『あーそうかい、つまり理由はないけど彼女を手助けしてると?』

 それは、雛鳥の親の法則かな、とエゾリーは微笑んだ。

 お前が本当に聞きたいことは分かってるつもりだ、とアヴラムは返す。

 『化け物と、ジーク、天秤に掛けた結果』

 アヴラムはジークを選んだ。

 『そして、俺は、死んだ人々が必ず辿る様を実感した』

 這いずる様な気分で愛する人の名を呼び、冷たく暗い感覚に閉じていく。

 『・・・・・・』

 エゾリーは、半笑いの唇を、ハッとした目をする瞬間に、無意識に強く閉じた。

 『目を覚ましたら、ジークという女がいた、あの時の俺は、どこかホッとしたんだ』

 『・・・・・・そうかい、羨ましいねえ、産声はあげた?』

 『冗談はよせ』

 『ああ、そうだね。もっと真面目な話をすれば良かったよ』

 アヴラムがジークを味方する理由は、

 単純なようでいて、複雑かつ怪奇なものなのだと、

 あえて、言葉にはしなかった。



初稿2018/06/16 18:04

 

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