《隠された王》
《隠された王》
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地を這う硬質な四脚のヒト。
青い返り血を浴びる少女の目は、それを冷たく見下ろす。
本来は宝石のような瞳、ガラス玉よりも濁った闇と、
刃物の様な鋭さを発し、その視線をみた瞬間。
首が飛び、視界が反転を繰り返し、地に頬を着けた者は
己の、首から上のない身体を目の当たりする。
地に蒼いペンキが流れ出すように、吹き出す血が自分のものだと気付く前に、
蹴られ、転がり、彼女のブーツ裏を拝むことになる。
顔面に走る冷たい音は、その化け物に、刃物が通過したものだった。
「・・・・・・」
対象の息の根を止めた事に少女は、小さく息を吐き出し、
切り落とされ、背後にとんだ片腕を回収する。
「・・・・・・っ」
断面と断面を無理矢理結合させ、細胞、血管を再構築。
脳が神経を正常に繋ぎ治し、異物が肌から抜け落ちる。
無事、再生が出来たことに、先ほどよりも大きく息を吐いた。
「!?」
そんな一時も長く与えられることは無い。
気配から、辺りを注意しだす。
「そんなに警戒することはなかろう」
高く濁った声をした、女か。
銀色の髪を肩に掛からない程度に切り揃え、獣の耳を生やしたタイプのもの。
片脚を前に出し彼女は刃こぼれの激しい刃物を背後に隠す様に構える。
「お主が噂の同族殺しの女かの?名前は?」
「・・・・・・」
彼女は何も答えない。
二人の睨み合いのなか、またすぐに銀髪の獣女が口を開く。
「先ほどの再生も見事だった、いや、滑稽といったところかあ?」
ニヤアと妖艶な笑みを浮かべる、悪い顔だ。
「・・・・・・私には、これが当たり前」
「異様な力も、その珍しい外見が理由ということか」
少女の外見は、今や滅亡を辿る人類と同じ姿だが、
その正体は敵対する者達と同じ、人がいれば化け物と例えられる存在。
「貴方も、殺されにきた?」
風を、切った。
「遠慮しておこう」
地に亀裂が走る、だが、その圧の先に獣女はいない。
少女の頬の横に、光弾が通り過ぎる。
「・・・・・・」
相手はひとさし指をこちらに向けている。
「・・・・・・もしもここに人がいれば、芸として楽しめたかも知れぬがな」
魔術妖術、その類いではなく、
相手の化け物が自身の体内で保有するエネルギーを操る術に長けている故の技。
「お主も、それが使えない訳ではあるまいて?」
「・・・・・・さあ」
距離を離した相手に、接近。
背後からの、強襲。相手の狐の尾が確認出来た。
「きゃん」
猫撫で声が聞こえた気がしたが彼女はそれを無視し、疾風と共に切りつける。
「なんてな」
二本の指先で刃をはさみ、その指先から流れる気で、ボロついた刃を崩壊させる。
「!?」
少女の顔がほんの僅かに引きつった顔をした。
「出来のわるいものに頼っておったか。切れ味を力で誤魔化していた、か?」
少女はすぐさま後ろへ跳躍し、片手を地に当てる。
目の色が、白く発光した。
砂が集まり、黒く変色。そして彼女が地に手を離すのと同時に、
黒砂は真っ直ぐな刀を模した武器へと《錬成》された。
「ほお・・・・・・」
獣女も驚いた顔をし、そして笑った。
指先から、手の平へと構えを変え、先ほどよりも大きな、数十センチの光弾を生成。
少女へ投げつけた。
その圧縮エネルギーを少女は受け止めることもなく、疾走し、回避。
着弾地点に光弾の何倍もの大きなクレーターを作りながら、爆発と煙を起こし、
回避に成功した彼女の視界を遮る。
「・・・・・・」
視界が晴れた時には、獣の女の姿と気配は消えていた。
「・・・・・・」
また会うことになるだろうと、予見した女。
錬成する刃はより切れ味を増し、
今後も狙われる化け物達の被害も残虐性が増していった。
初稿2018/05/30 11:13