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Siegavram  作者: 宮本シグレ(潮山)
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《揺れた輩》


 《揺れた輩》


 ******


 新人類地区Aの《跡地》。

 ジーク達が数秒前に、殲滅を終えた場所だ。

 《インセクト・ハイクラス》と名乗る紫水晶の甲殻を纏う者がジーク達の前に現れた。

 刺々しい鞭を持ち、かつ蠱惑的な毒々しい風貌でエゾリーとジークに忠告する。

 『マーマンの裏切り者ですか』

 『怒らないでよ、お姉さん』

 エゾリーはインセクト・ハイクラスが率いる者達に囲まれ、

 今までと同じ様に怯えて居た。

 「怒らないでね、XXXXX」

 ジークは易々と返す。

 「貴方を焼けば、小バエは途絶えるの・・・・・・?」

 その目は、揺るぬ強い眼差しだ。

 『人間の誇りを捨てられないお嬢様。・・・・・・おやりなさい!』

 増えた腕や脚に、多くの銃火器を取り付けた者達が、彼女を一斉射撃。

 ジークは走り、エゾリーは立ち止まる。

 ジークが刀を瞬時に作る中、エゾリーは銃弾の雨を余裕の表情で浴びた。

 『趣味の悪い毒弾だ』

 頬を貫通し、無傷の様に再生していく彼は

 少女の剣閃が毒の鉄粒を打ち払う様を眺めた。

 やがて、彼女一人に、弾幕が集中しようとした瞬間。

 天から降り注ぐ火炎によって、囲む者達は吹き飛び、弾幕の勢いが無くなった。

 インセクト・ハイクラスが振るう刺々しい鞭が、意のままに動き、

 彼女に迷い無く、突き刺さろうとした。

 ジークは刀を持つ右手を後ろへ、そして逆手持ちで、

 振りあげた瞬間、鞭の切っ先を大きく弾く・・・・・・。

 いや、砕いた。

 『なるほどねえ』

 エゾリーは間近で彼女の刀剣と、鞭の破損具合を見て改めて推測する。

 『ジークは、自分で作った刃に、自分の力を纏わせていたのは知っていたけど』

 どうやら以前みた炎や電撃の類ではなく、

 オウガに対して有害となるエネルギーも扱い、付与させることが可能。

 オウガ達の堅い甲殻を易々と切れるのは、その未知の力があるから・・・・・・。

 五感に長けたマーマンだからこそジークの多くを観察することが出来たが、

 まだ、彼女には底知れぬ力が隠れている。

 

 ******


 降り出した大粒の雨の中での格闘。

 ジークの刃によって徐々に削り取られるインセクト・ハイクラスの鎧。

 紫の腕甲を纏う拳を引き付けかわしジークも左の拳に力をのせ、

 アッパー---しかし、インセクト・ハイクラスは後ろへ大きく跳躍。

 「・・・・・・」

 ジークは大きく脚を伸ばし、大地を蹴るように前進。

 その疾走は勢いを止められず、敵の背後でターン。

 回転の勢いをのせ、大きく振り下ろす。

 だが、インセクト・ハイクラスは勢いに反応が可能だった。

 振り向きながら、背中の羽を飛ばし、宙を舞い剣撃を回避。

 「!?」

 見上げたジークは、驚いた顔をし、その顔を眺めた。

 アブラムのジークに当たらぬよう注意した見切りやすい火炎弾を避け続け、

 ようやくインセクト・ハイクラスは有利へ立て直せると微笑む。

 ジークは動かない。

 彼女が大きく跳躍しても羽を持つ相手には容易く避けられる。

 毒々しく刺々しい指先から、緋色の光玉を浮かび上がらせ、膨張させていく。

 この渾身の一撃を与えれば・・・・・・。

 ハイクラスは、そう考えた

 だが、違う。

 暴風が、吹き始めた。

 黒い雲に染まった大空から、一つの流星が、高速で舞い降り、

 その鋭い一閃が、インセクト・ハイクラスの背を真っ二つに裂く。

 瞬間、地に落ちたインセクト・ハイクラスと同時に

 その一筋の流星は、廃墟化の進む高層マンションの上階ベランダへと着地。

 『ツクモ!?』

 その流星から正体を現したツクモを、エゾリーが先に黙認していたが、

 ジークはその存在に先程から気付いていた。

 「・・・・・・」

 そしてインセクト・ハイクラスの落下した場を見直せば、

 そこには以前大きな翼を見せつけた純白の鳳凰が、ヤツの捕食を始めていた。

 『ジーク!』

 空から駆けつけ、地を大きく揺らしながらジークの傍に降り立つアヴラムは、

 手短に捕食を終えた鳳凰と睨み合う。

 嘴から毒々しい液体とハイクラスの残骸を垂らしながら、

 開いた嘴の間から刺々しい牙を覗かせた。

 鳳凰が折りたたんだ翼を展開した瞬間、その姿が消え、

 瞬時に、アヴラムの真上へ、大鷲の様な下肢の爪で襲撃。

 反応に遅れたアヴラムは、大地に身体や顔を叩き付けられた。

 「アヴラム!?」

 その光景をみたジークの顔が大きく驚きへ変わった。

 鳳凰はふらついたアヴラムを掴み、空へ空へ、舞い上がり。

 黒龍を宙へ放り投げた。

 だが、黒龍アヴラムも翼を拡げ、滞空しようとするも。

 その時には《鳳凰と同じ色をした海竜》が漆黒の雲から姿を現した。

 鳳凰、海竜は嘴と顎を開き、蒼白い光線をアヴラムに向け発射。

 更に廃墟マンションの上階から両腕と手を拡げ始める。

 すると黒龍アヴラムの身体から、徐々に黒が剥がれ落ち、純白へと・・・・・・。

 脱色していく。その光景を見上げたジークは、《気を失った》。

 『ジーク!』

 エゾリーが混乱の最中、手近な彼女に声を掛けようとした瞬間。

 漆黒の稲妻が、周囲の水滴や水たまり、暴雨から乱雑に伝導。

 エゾリーがまず、その漆黒の激痛に当てられ、視界を闇へと染める中、見えた。

 その黒き電撃は、ジークの身体から、発生していることを。



 ******


 感電、感電、感電。

 その稲妻を帯びたエゾリーは、高速で廃墟のマンションを這い上り、

 ツクモを襲う。

 「っ!」

 その圧倒的な速度に、手を止め、ベランダから華麗に飛び降りるツクモを。

 今度はジークが跳躍による一閃に捉えられる。

 翼や羽を持たぬツクモは、鳳凰を呼び。

 その鳳凰が迅速に光となって向かい、ツクモをすくい上げた。

 間に合わなかったジークはそのまま何の苦も無く着地するも。

 その表情は雨に濡れた前髪が張り付いて、確認することが難しい。

 瞬間、鳳凰の羽ばたきが大きく揺れた。

 その大いなる鳥の頭に立つのは《エゾリー》。

 ツクモは、驚いた瞬間、口元を僅かに歪めた。

 この大雨の中でエゾリー、いや、マーマンの真価は発揮される。

 だが、その真価を引き出したのは、ジークの力。

 「カエサル!」

 アヴラムの鹵獲がうまく行くと思えば、浅はかだった。

 カエサルという名を持つ海竜を呼びつけ、

 先程よりも白化が進まなくなったアヴラムは解放され、

 『ぐがっ!』

 廃墟ビルや建物の密集地に追突。悲鳴をあげ、大きな土煙が舞い始める。

 ツクモは、鳳凰と海竜を光の玉に変えながら、今度こそ泥濘んだ地面に着地。

 泥の粒が、彼女を僅かに汚すも、その汚れは瞬時に剥がれ落ちた。

 二つの光を身体に宿し、ツクモは顔つきが変わった。

 「・・・・・・」

 エゾリーを支配していた黒い雷をジークもまた己の身体に引き戻し、

 地面に膝をつき、倒れるエゾリーを背に、ツクモを睨む。

 「あの黒龍が、そんなに大事で、暴れるのか?」

 挑発されるも、薄い金の髪は顔にはりついたまま、

 僅かに見える唇も微動だにせず、何も語らない。

 だが、ジークの身体を走る黒の稲妻が、チリチリと鳴り止まず、

 激しさを失った小雨の中で彼女の感情を主張してる様だった。

 二人は、睨み合いながら、そのまま瞬時に動き、激突。

 すれ違う中、ジークとツクモは、身体中に多くの傷を受け、傷を再生し、

 背を向けながら、倒れていく。

 『残念だったなあ、ジークちゅわ~~ん』

 地に伏せたツクモの衣服をくわえ、ひょいと背に乗せる鳳凰ノヴァ

 『あのション便臭いガキちゃんを従える力の維持がまだまだだったみたいでちゅね~』

 先程の無言のまま悠々しい姿を裏切る様な嫌味な声で倒れた少女を嘲笑う。

 『俺達が美味しく頂いた後、黒焦げの丸焼きを調理しちゃうとするかあ』

 『・・・・・・』

 カエサルは無言のまま、ノヴァよりもジークへ近づいた。

 「誰が、黒焦げの丸焼きだって」

 カエサルの顔に、爆炎が当たる。

 「!?!?!?!??!?!?」

 カエサルとノヴァは驚くも、ツクモは、更に驚いた顔をしていた。

 短く清潔に切った白髪の混ざる黒髪と、

 色素の病に掛かった人の様な褐色と、白が混じる肌。

 そして、左の片袖だけが白く染まった、黒づくめのスーツの人間が、

 大経口の銃を構え、連射する。

 今度はノヴァの翼を狙うも、それは牽制にもならず、容易く避けられた。

 『こんな大雨の中、爆薬が使えるとはなあ、特別製か半分こ人間!』

 『貴様、《アヴラム》だな』

 ノヴァがツクモを庇いながら羽ばたき始めると、

 一撃を直に喰らうも無傷なカエサルが、その人間の正体を見破り、大顎を開く。

 「・・・・・・・・・よせ!」

 ツクモが制止の声をあげた。

 その顔は、悲痛になまでの悲しみをみせ、瞳が小さく揺れていた。

 「さっきは図体がでかくて苦戦したが、この状態の俺なら、お前らを出し抜けるぞ」

 銃口を、《ツクモに向け》、脅す。

 「っ・・・・・・」

 ツクモが震えた声を、漏らした。

 人間の姿に変わったアヴラムはジリジリと接近し、地に倒れるジークへと近寄る。

 「動くなよ・・・・・・」

 あくまでも、標準は、ツクモへと定まっている。

 『・・・・・・かっ、そんなに小娘が大事なのねえ』

 ノヴァはようやくクチバシを開き、言い返す。

 『撃てよ、だが、撃てば、俺様は許さない』

 そして脅しながら、ずぶぬれのエゾリーをくわえ、アヴラムの方へ投げつけた。

 『てめえが出来ることは、惨めに背中をみせ、糞ガキダブルを抱えて逃げることだよ』

 「・・・・・・見逃すのか」

 『俺様の苛立ちが高まる前に、いけよ』

 ジークとエゾリーを掴み、抱え、そして背負うアヴラムは、

 奴らに背を向けず、ゆっくりと後ずさりを始めた。

 『同情するぜ、ケロイドドラゴン』

 『お互い様みたいだな』

 白き鳳凰と、同じく白き海竜、そして、対極の黒龍は睨み合う中、

 お互いは滞空を始め、戦地からゆっくりと離陸したのだった。


 『おいツクモ、お前は俺様の女だ』

 ノヴァは背に乗り、顔を羽毛に埋めるツクモに向けて囁く様に言った。

 『だから、他の男に心揺れすんじゃねえよ。妬くだろ』

 口調が、少し変わった。

 「すまぬ・・・・・・、ノヴァ、分かっておる。お主とわらわは友じゃったな・・・・・・」

 『・・・・・・お前達、まさか』

 「『違う』」

 カエサルが言い終える前に、二人は軽く否定した。

 『分かった』

 すぐに、カエサルは理解したのである。



 ******



 一方その後。近くの山奥に身を潜めた者達は・・・・・・。

 『目が覚めたか』

 痒い瞼を無理矢理開けたジークの顔を見下ろしながら、黒龍アヴラムは安堵した。

 『なんだか、アヴラムが全力で逃げて助かったみたいだよ』

 同じく事情を知らないエゾリーはジークよりも先に意識を取り戻していた様だった。

 『二人を助けられて、本当に良かった』

 そのアヴラムの言葉に、ジークとエゾリーは静かに感謝した。

 「貴方が無事で、本当に良かった。そしてエゾリーも」

 『な、なにそのおまけみたいな言い方』

 そう文句をいうエゾリーもまた、満更でも無い顔で・・・・・・。

 二人を眺めながら、アヴラムは大きな欠伸を始めるのだった。

 

 初稿2018/07/03 08:17

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