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Siegavram  作者: 宮本シグレ(潮山)
12/14

《冷める炎》




《冷める炎》


 ******



 一つの綺麗な曲線が、獣染みた人の身体を抉る。

 迷い無い刃のさばきが、対象に抵抗をさせぬまま、

 少女の冷めた視線は敵の急所を定め、的確に刺し穿ち続けた。

 「・・・・・・」

 亜人達も、ただやられるだけではなく、彼女に対して呪詛を吐き捨てた。



 ******


 小さなたき火が揺らめく中、エゾリーがジークに話を持ちかける。

 『そういや、君の剣ってさ、いつも砂から作ってるけど、どういう原理なの』

 「テキトー」

 『・・・・・・武器を何不自由なく作れる力はそうそうないと思うけどなあ』

 エゾリーはマーマンという種族で、水分を維持出来れば、

 肉体を半液状に変化させることで敵を拘束することや、狭い通路を通ることも安易だ。

 だが彼女は、自分の肉体から離れた武器、特に刃を易々と作り出す。

 彼がジークと最初闘った時、彼女は手の平から熱を発し、彼の拘束を逃れた。

 同時に、エゾリーも自分の《液体で出来た腕》を切り、再生させる。

 彼女の手の平・・・・・・、全身には、

 物理的に物を変え、作り出せるエネルギーがあることは分かるのだが、

 砂埃や、果てにはアヴラムの背にのり何も無い空中で待機する場合でも剣は作り出せる。

 更には、その切れ味は、エゾリーの様な戦法を用いない敵を易々と斬る業物。

 亜人オウガの多くの肉体は、旧人類が用いた兵器をものともしない。

 『君が作る刃は、あまりにも恐ろしいよ』

 彼女自身に秘密がある、エゾリーはそう考えていたが、

 どうやらジークも、説明が出来ない類いらしい。

 「・・・・・・最初から、出来た訳じゃない」

 『ふーん、最初は手や脚での格闘?』

 それはそれで恐ろしそうだなとエゾリーは思えたが、

 彼女の口から徐々に語られる、オウガの《極めて生命への侮辱が扱われた発言》とか、

 《沈黙は金、雄弁は銀、言わぬが華》や《禁則事項で禁則事項してあれれおかしいなとおもって禁則事項を禁則事項から禁則事項してたというようなとにかく触れてはいけない話を無理矢理説明しようとした結果、何も分からなかったりするけれども、なんとなーく壮大な話に見えてくる背景》から《自制は神々に与えられた唯一の贈り物》と。

 『錆びた刃物を持って対抗しようとしたら、その刃物が新品の様に変わった、と』

 経緯を纏めれば、そうなる。

 闘うにつれ、その包丁やナイフの様な短い刃物は、より長くなり、刀の形状へ変異する。

 しかし、今彼女には、その業物は所持していない。

 過去のツクモとの戦いで喪失したのだという。

 「私は、もう一度作り直そうと思った」

 すると今度は、不思議と身体が動き、砂から刃物を作り出し、撃退した。

 彼女の言葉から描いた限りの状況を疑うことはなくとも、

 その言葉から、エゾリーは驚きと同時に、ジークの異質さを覚えた。

 人間に最も近い姿をした彼女の内側には、

 底知れぬエネルギー・・・・・・、可能性があること。

 ジークと対抗出来る存在は、現在ツクモだけと、答えが浮かび上がる。

 『ジーク、君は、いずれツクモと闘うのかい?』

 「・・・・・・」

 薪の粉が小さな火花を起こす音が続いた。

 『分かってたよ、闘わない、なんてことはない』

 『僕が望めるのは、ツクモを倒した後で、アヴラムを倒す前、で良いかな』

 「・・・・・・」

 ジークはたき火からエゾリーの方へ、無表情な顔をゆっくりと振り向かせる。

 「貴方には、本当の望みがあるんでしょう?」

 覚えていたのか、と苦し紛れの言葉を思い出しながら、後頭部を掻く。

 『・・・・・・そりゃ、ねえ』

 「貴方の望み、叶うといいね」

 思ってもいないことを、と、エゾリーは僅かに感じたが、

 彼女が何故、その言葉を選んだのかと戸惑いが、彼の顔に出てしまった。

 薄暗くなった空、橙の色が強まる火。

 彼女のその顔、瞳に、火の光が僅かに映っていた。

 『・・・・・・君にそう言われるとは、意外だったよ』

 エゾリーは彼女の心情よりも、己自身の心情に対して、理解に苦しむのだった。




初稿 2018/07/03 02:29

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