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Siegavram  作者: 宮本シグレ(潮山)
1/14

《巡る転機》



 《廻る好機》


 ******



 『汚染された海、拡大する砂漠』

 魑魅魍魎がざわめく市街。

 『旧人類は滅亡、新たな人類の繁栄が約束された』

 悪魔を思わせる獣の角や牙。

 『我々はなんだ?いいや、我々こそが、神に赦された人類』

 高らかに叫ぶのは、より悪魔に近く、その豪華な衣装は、大昔の王にも見えた。

 『《白き風》はノアの洪水の如く、私達はこの地を再生する役目がある』

 光の指す地獄。とでも言うのか。

 今この場に人間がいれば、そう例えるだろう。

 だが、人間と呼べるものはいない。

 多くの者の姿は、獣の顔をしているか、人の顔を持つ巨大な獣か。

 『そして我々は、この地から、あの天へと・・・・・・』

 演説者が指さした蒼空に、大きな黒い点が見えた。

 太陽の光で多くの者の眼をくらます中で、その黒は膨張。

 いや、飛行する巨体が、近づいている。

 演説の会場は、その墜落によって大きく揺れ、灰色の砂煙を出す。

 多くの者が、魑魅魍魎が、別の意味でざわつき始めた。

 旧人類の報道機材を通して映し出される光景に、

 その場にいなかったものさえ、困惑する。

 煙が晴れた中で見えたのは、

 人間、旧人類の女。簡易な鎧を身に纏い、腰に黒鋼の鞘に納まる刀剣を帯刀する。

 そして背後には、龍型の異形。

 人々はその漆黒の希少種に驚くのと同時に、この状況に思考が止まっている。

 演説者の首が、彼女が抜刀した刀剣に斬り落とされた。

 冷たい眼で女は、床に転がる首を眺め、次は、手、足を易々と切り裂いた。

 目の前の死体は、人間では倒せない程度の実力はあった。

 だがこの強襲と、絶滅したハズの人類の生き残りという情報が混乱と死を与える。

 演説者の代わりに、彼女が前に出た。

 その背後にいた、彼女の数倍は大きい黒龍は、異形の死体を喰らっている。

 虚ろな翡翠の瞳が、顔を動かさずに、多くの者を見下す。

 無造作に伸びたプラチナブロンドの髪が風で舞い、隠れた額が見えた。

 「・・・・・・」

 強者の、白き肌の額を視て、多くは驚き、歓喜した。

 『姫様!?』

 深読みをし過ぎた者。

 『ああ、我々の姫様だ!』

 その言葉に、事実から目を背ける者。

 『あんなにも人間の姿を維持出来るのか!?』

 新たな統制者の誕生の瞬間だと、皆勘違いする。

 だが、彼女はそのステージから落下し、一番近い席の者を刺す。

 周囲は静まった。

 そして中継を通した世界中の者もまた、沈黙。

 彼女に殺されたのは、《母》、人間ではない母が産み育てた赤ん坊と共に、

 心臓を貫かれた。

 人間の姿を捨てた癖に、臓器の位置に大差ないことに彼女はなんとも思わない。

 ただ、異形の母と子を同時に殺せる箇所が、そこだっただけ。

 悲鳴をあげ、連鎖する。

 人間だということを再認識した者達から彼女に襲い掛かるも、

 彼女の疾走と剛力に、切り倒される。

 『アイツ、人間じゃないけど。イカレテヤガル』

 間違っていない言葉を吐き捨て、逃げ惑う者達を、

 背後の龍が吐いた炎塊が飛ばされ、燃やしていく。

 炎上していく人の居ない演説の広場。

 改造された貴重な映像音声機材をもった者達も

 彼女の刃に切られ、龍の炎で燃やされ、捕食される。

 老若男女問わず、二つの存在の餌食となった。

 『ジーク、次はどうする』

 羊の様に左右対称に歪んだ角を持つ黒龍は彼女をジークと呼び、聞いた。

 「飛びましょう、アヴラム」

 静かにジークは黒龍・・・・・・アヴラムに告げると、その龍は翼を大きく広げた。

 

 

 蒼い空を飛ぶ黒龍アヴラムと、その背に乗るジーク。

 武装した有翼種が追いかけ始め、こちらへ攻撃を・・・・・・。

 彼女の虚ろな左眼の虹彩が紫の色に変わり、かざした手と指で紫電の塊を飛ばす。

 『おい、こっちもくすぐったいぞ』

 「ごめん」

 電撃がアヴラムにも当たっているのか、そう文句を言われる中、一体に命中。

 「アヴラム、逃げ切れる?」

 もう一撃を放ち、命中。

 『キリが無いか』

 さらに、撃墜。

 「ええ、次の親玉を」


 彼女の左眼が蒼白く発光し黒龍アヴラムと彼女から蒼白い炎に包まれ始めた。

 燃えていく様に、その蒼空と黒い海の間から、彼女達の姿は消えて行った。




 ******




 ******



 人々が繁栄する世の中に、病と、異形が溢れた。

 多くの人間が発病し死んでいく中で生まれる化け物。

 生気の無い白き身体が、人類の捕食者として鮮血を帯びる。

 ---ああ、終わった。

 感染者の彼女は、自分の不衛生な身体が表面から崩れていくことを察した。

 己も世界で報じられる患者の一人で、逃げ延びた場所で命尽きるのだと。

 痛みが増すほどに、恐怖が消えて行く。

 自己という存在が消えるだけで、この身体を糧に化け物が生まれる。

 小汚いベッドだが、羽虫も湧かずに死ねるのだと、納得した。

 ---違う。

 擦れ行く意識の中で、己の理性が、諦めの理性と衝突する。

 痛みが増すほどに、悔しさが増す。

 まだ残った両足に力を入れ、ボロボロな片腕に頼らず、腰と腹で、

 上半身を起こす。

 眠ってはいけないと言い聞かせる。

 それでも、力が足りない。根本的に足りない。

 崩壊と再構築が始まる。

 白く染まる思考、黒い視界。

 


 ******



 鬱蒼とした森。

 夜明け近く、紫の濃霧の黒や白、緑の黴が目立つ。

 永い眠りだった。

 《彼》自身、眠りに付いたのが数刻前だと錯覚するが、

 実際に流れた時間は、10年。

 大きな顎を開き、欠伸が出た。

 人であった時の最後を思い出した。

 もう型の名すら忘れたが、戦闘機での飛行をする職だったかと。

 大きな両翼を拡げ、爬虫類の瞳が自分の額を睨む。

 『ああ、ここに墜落した俺も、病に落ちたのか』

 そんな巨大な異形は、人の言葉を発した。

 「起きたの?」

 視界がハッキリとしていく彼の前には、独りの女性がいた。

 『人間!?よせ!俺に・・・・・・』

 近づくなと言いかけた瞬間、彼は違和感を覚えた。

 彼女は、人ではない。

 『驚いたな、人のまま生き返るとはな』

 己の本能が、捕食対象ではないと告げ、その違和感を、

 人間だった頃の害病の情報を照らし合わせれば、答えは自ずと見えた。

 「貴方の中身は人間のまま?」

 『恐らくな、珍しいか?というよりも、何故お前がここにいる』

 「貴方が欲しいの、ずっと探していた、ずっと待っていた」


 少女は語った。


 これから、《全てを根絶やしにするのだ》と。





初稿2018/05/04 17:14 

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